2020年度は42.2兆円、2040年には66.7兆円
前回、ポリファーマシー(多剤併用)について、皆さまにとっても身近な問題であり、せっかくの治療薬により健康を害する恐れがあることや医療経済としても大きな問題であることを説明しました。
厚生労働省の「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し」により、この10月より後期高齢者(75歳以上)の医療費自己負担の割合が1割から2割に変更となりました(所得により1割のまま変更がない場合もあります)。その要因としては高齢者増加に伴う医療費の増加が挙げられています。
日本の医療費は年々増加しており、2020年度は42.2兆円、2040年には66.7兆円になると予測されています。その中でも特に高齢者の医療費の割合は大きく、高齢者医療の適正化は医療経済のことを考えると必要不可欠となります。
そこで今回は、そうした医療費の増加にも大きな影響を与えているポリファーマシーについて、何故ポリファーマシーになってしまうのか、ポリファーマシーを避けるために患者さんや家族ができることはないのか、について書いてみたいと思います。
まずポリファーマシーは一般的に5種類以上の薬を服用している状態を指します。この「5種類」という基準は現実的にはなかなか厳しく、例えば代表的な生活習慣病である「高血圧」と「糖尿病」を持つ患者さんを治療する場合、それぞれの治療ガイドラインに準じてしっかり治療するとそれだけで5種類の薬になってしまうことは珍しくありません。更には高齢者で「腰が痛い」「体がかゆい」「おしっこが近い」などの症状が加われば、ほぼ間違いなくポリファーマシーになってしまいます。
ここで誤解して欲しくないのが、5種類以上の薬を飲んでいることの全てが悪いというわけではないということです。
例えば「心筋梗塞」を起こしてしまった患者さんの場合では、心筋梗塞が再発したり、心不全を起こしてしまうと患者さんの生命やQOL(生活の質)に大きく関わります。ですので、それらを予防するためには5種類以上の薬が必要になる可能性が高いですが、このような場合は適切なポリファーマシーと言えるでしょう。
しかし、どのような状況でもポリファーマシーを意識することで、漫然と投与されている薬を減らし、ポリファーマシーによる有害事象を減らすことに繋がります。