薬局から大量の薬を持って出てくる高齢者…
読者諸氏はポリファーマシーという言葉を聞いたことがありますか? 多くの人にとっては、あまり馴染みのない言葉だと思います。ポリファーマシーとは、ポリ(poly:多数の)+ファーマシー(pharmacy:薬剤)の造語であり、日本語に直すと「多剤服用」になります。病院を受診した高齢者が薬局から大量のお薬を持って出てくる姿は、何となくイメージしやすいかと思います。
それでは、何種類以上の薬を飲むとポリファーマシーなのでしょうか? この点に関して明確な決まりはないのですが、ポリファーマシーに関する研究では「5種類以上の内服」と定義していることが多いようです。ちなみにポリファーマシーに関しては、医療機関で処方されている薬以外に、患者さんがご自身で購入しているサプリメントなども含まれます。
何らかの病気で医療機関に通院する患者さんは、加齢とともに治療が必要な病気が増えていき、それに伴って処方されるお薬の種類も増えていくことが多いです。もちろん、患者さんの病気を一つひとつしっかりと治療していくことは、患者さんの健康を維持するために重要なわけですが、お薬の数が増えすぎるとそれによるデメリットも増えていきます。
ポリファーマシーで最も問題になるのが「薬による有害事象」です。有害事象とは、「医薬品の使用によって生じるあらゆる有害な反応」を指します。医師は処方した薬により有害事象が生じていないかどうか注意しながら診療するわけですが、ポリファーマシーでは有害事象のリスクが3割ほど増加すると言われています。特に高齢者の健康状態を大きく損ねる可能性のある有害事象には、「転倒・骨折」「認知機能の低下」の2つが挙げられます。
転倒・骨折:薬が原因で寝たきりに…
「転倒・骨折」は、高齢者が寝たきり状態になる原因の約1割を占めるとされます。特に背骨や股関節の骨折はその危険性が高く、何としても避けたいところです。
また、高齢者の場合は内臓機能の低下によって薬の代謝・排泄が低下し、同じ量の薬を使っていても加齢とともに効果が強くなる場合があります。
たとえば「高血圧」では、長年同じ薬を飲んでいても加齢に伴い効果が増強し、実は血圧が下がりすぎていて、それが原因となりふらついて転倒する、といったことも珍しくありません。健康を守るために処方されているはずの薬が原因で寝たきりになってしまったら、元も子もないですよね。