1.スタグフレーション懸念で堅調さ際立つ食糧関連株
2.ウクライナ情勢が落ち着いても収まりそうにない食糧価格の高騰
3.食糧危機の救世主か、世界で急拡大するフードテック
コロナ禍からの回復過程でのサプライチェーンの混乱や、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーの供給懸念などから、世界経済はほぼ40年ぶりの高インフレに見舞われています。こうした事態を受けて、米国をはじめとする主要国では急ピッチでの利上げが実施されていますが、同時に金利上昇による景気後退への警戒感も高まっています。
市場では「高インフレ」と「景気後退」が同時に進行する、「スタグフレーション」への警戒感が高まっていますが、こうした厳しい経済環境を受けて、食糧関連投資への関心がにわかに高まっています。
1.スタグフレーション懸念で堅調さ際立つ食糧関連株
■欧米を中心に高水準のインフレが続いています。価格の高騰は石油などの資源エネルギーや農産物などの1次産品だけでなく、様々なモノ・サービスにまで及んでいます。そして、多くの企業が原材料価格の高騰に苦しむ中、わたしたちが生きる上で不可欠な食糧の供給にたずさわる関連企業は相対的に価格転嫁が容易なため、その業績は「インフレ耐性がある」とされています。
■また、不況期には収入の減少や先行きへの不安から人々は出費を抑えるのが常ですが、健康な身体を維持していくためには食費を抑えるのにも限界があります。このため、生活防衛のしわ寄せは主に携帯電話、パソコン、家電製品、車といった耐久消費財や、レジャー、外食といった「ハレの日消費」に向かうことになります。このため、食糧関連企業の業績は不況期でも比較的安定しており、「不況耐性がある」と考えられています。
■今年に入り市場では「高インフレ」と急激な金融引き締めによる「景気後退」が同時に進行する「スタグフレーション」への懸念が高まっています。食糧関連株はこうした「インフレ」と「不況」の両方への耐性を備えた、「スタグフレーション・ヘッジ」としての特性が注目されたこともあり、堅調なパフォーマンスを続けています。
2.ウクライナ情勢が落ち着いても収まりそうにない食糧価格の高騰
■ここもとの食糧価格の高騰は、世界でも有数の穀物生産・輸出国であるウクライナへのロシア侵攻が大きく影響しているのはご存知の通りです。一方、もう少し長い目でここ数年来の食糧価格の動向を眺めると、ロシアによるウクライナ侵攻以前から大きく上昇に転じていることに気づかされます。
■こうした食糧価格のトレンド転換の背景には、新型コロナウイルスのパンデミックによる景気悪化で浮き彫りになった、世界的な食糧不足があります。
<食糧価格の高騰の背景に世界的な食糧不足>
■国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連児童基金(ユニセフ)、国連世界食糧計画(WFP)、世界保健機関(WHO)が共同で発表した「2022年版・世界の食糧安全保障と栄養の現状」によると、2021年現在、飢餓に苦しむ人は世界で7億6,800万人(世界の全人口の9.8%)にのぼり、近年その数は増加傾向にあります。
■また、同調査によると、飢餓は免れているものの十分な食事をとることができない人が、世界には約23億人いるとされています。実に、世界人口の4割の人々がまともな食事をとれない窮状にあえいでおり、深刻な食糧不足が食糧価格高騰の背景にあると言えそうです。
<人口増と地球温暖化で深刻化する食糧不足>
■こうした食糧不足は、今後も世界人口の増加が見込まれるため、収まる気配がありません。国際連合(国連)による最新の推計では、現在約80億人の世界人口は2058年には100億人を突破し、その後も100億人を超える水準が続くものと予想されています。
■人口増による食糧不足に拍車を掛けるのが、地球温暖化による水不足の深刻化です。地球上の淡水のうち約7割が農業用水として使われていますが、気候変動がもたらす異常気象は農地の砂漠化、河川の水質悪化、地下水の塩水化、水源の枯渇などを引き起こし、2030年には世界の水不足はその需要の4割に達するとの予測もあります(世界銀行の「The 2030 Water Resources Group」調べ)。
■価格高騰の背景にある食糧不足の解消には、食糧の増産は今や待ったなしの状況ですが、現状は事態の改善からは程遠い状況と言えそうです。
3.食糧危機の救世主か、世界で急拡大するフードテック
■SDGsへの世界的な関心の高まりもあり、「貧困」や「飢餓」といった社会問題の解消に貢献する「フードテック」ビジネスが急拡大しています。
■「フードテック」の市場規模は、2020年時点で約24兆円とされていますが、今後は様々な分野で市場が急成長し、2050年には現在の10倍を超える279兆円まで拡大すると予測されています。
■中でも、今後大きな成長が期待されるのが、植物由来の原料で作る「代替肉」、必要なエネルギー・栄養素をもれなくとれるよう人工的に造られた「完全栄養食品」、食品廃棄物で育てた昆虫を家畜やペットの飼料に使う「昆虫飼料」、といったものがあげられます。こうした「フードテック」に共通するのは、生産効率の悪い牛や豚といった家畜の代わりに、大豆や昆虫由来のタンパク質を活用することで、より多くの人に必要な食糧・栄養素を届けようとする試みです。
■動物性タンパク質に代わる「代替食糧」や、テクノロジーを駆使して食糧生産を増やす「バイオ・ゲノム技術」、「ロボット農機」、「陸上養殖」といった、広く食糧の生産に関わるものをフードテックの「川上」とすると、食品流通や消費、その後の処理に関わる「川下」についても、近年注目を集めつつあります。
■「川下」の代表的なものとしては、冷蔵庫や調理器具をインターネットでつなぎ食材の無駄を減らす「スマートキッチン」、「賞味期限管理アプリ」、食品の長期保管を可能にする「コーティング・包装・容器技術」、「特殊冷凍技術」などがあげられます。
■こうした「川下」が注目を集めるのは、「フードロス」の改善に寄与することが期待されるからです。現在世界で生産される食糧の実に3分の1はきちんと食べられずに捨てられており、食糧不足の解消には「フードロス」を減らすことが重要とされています。こうした「川下」企業は、特に「フードロス」の大きな原因とされている家庭で生じる食品廃棄を減らすことで、食糧問題の改善に大きく貢献することが期待されています。
まとめに
「空腹では隣人を愛せない」と言ったのは、米国第28代大統領のウッドロウ・ウイルソンです。敬虔なクリスチャンでもあるウイルソンが嘆いたように、人類は食糧の生産に欠かせない「土地」と「水」をめぐり、有史以来今に至るまで紛争を繰り返してきました。
スタグフレーション懸念がくすぶる今、「食糧関連株」は有効なリスクヘッジとして関心を集めています。そして、食糧不足の背景には人口増や地球温暖化といった根深い構造問題があるため、「食糧関連株」は今後も息の長い投資テーマとなる可能性があります。中でも、最新のテクノロジーを駆使して食糧問題の解決に取り組む「フードテック」企業は、その安全保障上の重要性の高まりもあり、今後さらに注目を集めることになりそうです。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『スタグフレーション懸念で堅調さ際立つ「食糧関連株」【専門家が解説】】』を参照)。
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
投資情報グループ