能力重視の時代…いまや中高年齢層は「手堅い人材」
中高年齢者の雇用をめぐる状況にはきびしいものがあり、以前は求人条件に三十歳まで、四十歳までという年齢制限をつける企業も少なくありませんでしたが、それでも私が数多くの求職支援を体験しての結論は、転職が成功するかどうかに年齢、性別、学歴はまったく関係ないというものでした。
それは、日本型の雇用慣行が変化し、採用が多様化して、人材の評価基準も人基準から仕事基準へと変化してきているからです。高度な知識や技能者への需要が増え、働き手の働き方や意識も大きく変わってきています。会社が望む結果を出してくれる人材なら、四十歳でも五十歳でもかまわないのです。将来的に期待できるかどうかわからない若年層より、中高年齢層のほうがあらかじめ計算できることが多いのも事実です。
もちろん性別も関係ありません。結果を出すのが男性だけとは限らないでしょう。先進国のなかで、女性の職場進出がもっとも遅れているのは日本だといわれてきましたが、男性よりむしろ女性のほうが適応力もあり、適職もたくさんあります。職場でも女性上司の下では働きづらい、女性にこの仕事は任せられないなどという人はなくなりつつあります。
「女性だから」という言葉は求職活動に際しては忘れてください。学歴については前回の記事でも少し触れましたが、指定校制度はなくなりつつあり、学閥にこだわるような会社は早晩、衰退することでしょう。学歴は学歴で大事な面がありますが、求職活動に関するかぎり、学歴は二の次です。自己研鑽を怠りなく続けることによって、その道のプロフェッショナルになることだけが求められる時代なのです。
再就職先が決まらないのは「年齢のせい」ではない
求職活動をしている中高年齢層の方々に再就職先が決まらない理由を聞いてみると、ほとんどの人から、「自分の年齢が高いからで、三十歳代なら仕事はある」という答えが返ってきます。これは昨今の企業環境や人事制度を正しく理解していない人の答えであり、こういった感覚ではどんなに求職活動をしても、まず自分の希望する会社に就職することはできないでしょう。いうまでもなくいま企業が求めているのは、成果をあげられる能力であり、年齢ではありません。
ただし、中高年齢層が採用の対象とならない一般的理由はあり、それを知っておくことも必要です。若年齢層に比べ、人生経験も豊かで知識、技術、ノウハウなどをたくさんもっているはずの中高年齢層がなぜ市場価値が低いといわれるのか、よくあげられるのは次のような理由です。
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<市場価値が低いとされる理由>
●ITに代表される今日の技術革新についていけず、心身の老化とともに気力や体力が十分でない
●加齢とともに新しいことへの興味が薄れ、知的好奇心をなくすなど、創意や工夫が疎かになる
●自分が過去に体験した習慣や考え方に固執する傾向が強く、保守的となったり、性格的に頑固になったりして柔軟な対応ができない
●新技術や新知識導入のため、教育機会を与えようとしても、いまさらこの年でという理由で挑戦意欲がみられず、新しいことに抵抗する
●年功序列の恩恵で給与水準が結構高かったため、自分はできると思い違いをして自意識過剰に陥っていることが多い。結局は自分の給与分の結果も実績もあげられない
●マネージャの経験をふりかざして部下に文句をつけたり批判したりするが、口だけ出して実行力がともなわない
●現状に甘んじようとしたり、すべてを社会や会社の責任にしたりして、自ら解決し乗り越えていこうとしない
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ただし、「中高年齢層ならではのスキル」もある
一方、評価される職務能力や人間関係力もたくさんあることを忘れてはなりません。以下は、一般的に加齢とともに高まる能力です。
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<加齢とともに高まる能力>
●仕事の基礎的知識、専門的実務知識が蓄積されていて、確実な判断力がある
●トラブル、事故などの不測事態の経験が豊富で、その対応力が非常に高い
●終身雇用で培われた勤勉性、協調性、ねばり強さ、責任感、バランス感覚などがある
●つき合いの広さと深さがある。すぐ活用できる人的ネットワークという強みがある
●規則や規定を正しく守り、上司の指示や命令に従い、職場秩序を維持していける
●最新技術でもカバーしきれない熟練による技術や技能をもっている
●経験にもとづく案件の企画や開発に活躍できる。実現可能な企画立案力がある
●部下の能力や適性などをつかんで指導や助言を行ないながら、人材の教育にあたれる
●対人関係スキルがあり、顧客対応力や折衝力にすぐれている
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昨今の企業は、キャリアゴールが随所にある多角形型になっています。これは企業体質を強化するために、従来の業種にかかわらず、儲かる仕事ならなんでも挑戦しようという戦略にもとづくもので、まったくの異業種に挑戦し利益をあげている数多くの有名企業があるのはみなさんご存じのとおりです。そのときに必要とされるのは、若年層が育つまでの間、そのゴールの仕事を任せることができる経験、知識、技術、ノウハウをもった人材、つまり中高年齢層です。
こうした企業の動向ひとつとってみても、四十代以降の求職はむずかしいという思い込みが当を得ていないことがおわかりいただけるでしょう。
楠山 精彦
関西キャリアデザイン研究所 代表
和田 まり子
NPO法人キャリアスイッチ 理事長