まずは「硬直マインドセット」をリセット
これまでの体験などにもとづく思い込みや心の枠組みによってつくり上げられた固定化された考え方をマインドセットといいます。スタンフォード大学のキャロル・ドウエック教授はその著書で、「硬直マインドセット」(fixed mindset)をもっている人は、人の知能や資質、特性は固定的で変わらないと信じ、自分の有能さや賢さを示すことばかりにとらわれている。資格試験などで才能を証明できれば成功、できなければ失敗という心の持ち方をする。これに対し、「しなやかマインドセット」(growth mind set)の人は、努力次第で人の能力は伸ばせるという信念をもっているとしています。
あなたのマインドセットはどちらでしょうか。転機を迎えているいま、もし硬直マインドセットであるなら、リセットして心のあり方を変える必要があります。
出向・転籍のみならず、転職など、すべての求職活動を成功裏に進めるためには、注意しなければならないことがあります。それは、新しい職探しやポジション探しという目先のことにとらわれて、本来そこで考えねばならない、あるいはしなければならないことを見落としがちになる点です。
求職活動をする場合、特に四十歳代以降に再出発するような場合に、これまでは何か消極的で後ろ向きのイメージの人が多く見受けられました。そのような気持ちを抱いているなら、「しなやかマインドセット」に切り替えてください。
今日、人材の流動化が活発になり、出向・転籍、希望退職・リストラが日常化するような状況が続いていますが、求職活動をするにあたり、不信や不満だけをもって、どうせうまくいかないだろうと決めてかかっては、けっして成功しません。なかには会社に裏切られたという気持ちを抱く人もいますが、だからといって会社を恨んでも何の問題解決にもなりません。目の前の事実を前向きにとらえ、積極的に、自分で自分をプロテクトしてアクションを起こしていくこと、大事なのは、将来を構想しながら、自分の新しいキャリアをデザインしていくという発想です。
「うまくいかない人」に共通する4つの特徴
私が過去に数千人もの求職活動を支援してきた経験からみると、求職・転職がうまくいかない人には次のような共通点があります。
第一は、よい結果が得られない原因を他に転嫁する人です。
コロナ禍で自分を受け入れてくれる企業はない、これまでの経験といっても、たいしたことはないから転職先なんて見つかるはずはない、高齢だからいままでと同じ給与を出してくれる企業なんてあるはずがない、などの理由をあげるようでは、たとえ、そのような現実があったとしても、最初からそういった先入観を抱いて活動するなら、よい結果は得られません。就職活動では、自分で活路を開き、自分で努力していくしかないのです。自己責任で解決するマインドセットが必要不可欠です。
第二は自分に自信をもてない人です。
求職活動を開始するにあたっては、まず自己分析を徹底して行ない、自分という「商品づくり」をすることからはじめますが、その際のマインドとしてぜひ、もっていただきたいのが、「世の中で必ず自分を必要としている企業がある」と信じることです。
私は、就職支援のカウンセリングではいつも「いまのあなたには、その企業が見えていないだけです」と強調します。言い換えれば、必要とする企業が具体的に見えるようになるまで努力することが大切なのです。求職活動中の方は、自分が駄目だからと思いがちですが、それは絶対捨て去ってください。いままでの組織で結果を出せなかったとしても、働く場所が変わって大きな成果をあげたケースは数限りなくあります。「しなやかマインドセット」に切り替え、必ずできるという思いで、よい結果を現実に引き寄せてください。
第三は、求職活動にセールスの発想ができない人です。
求職活動は、自分というセールスマンが、自分という商品を買ってくれる企業に、いかに的確に、素早く接触していくかがポイントで、それは通常の商品販売とまったく同じ発想です。どのようなセールス活動であっても大切なのは、商品の品質がよいことです。品質がよくて価格が適当であれば、どのような不況時でも商品は売れるのです。要は、商品の特徴をつかんで、売り込み方を工夫することです。
第四は、学歴や肩書きのこだわりが捨てられない人です。
日本の高度成長を支えてきた人のなかには高学歴、高職位をすべての価値判断の物差しのように考える人が少なくありません。そうした考えは、これまでの時代の流れのなかでつくられたもので、有名校に入り、大企業に入るのが物事の判断基準でした。
しかし、社会情勢が様変わりし、企業の求める人材像も大幅に変化した現在、新卒の採用も偏差値一辺倒ではなくなりました。途中入社しかりで、即戦力になるかどうかだけが採用基準になっています。
自分の卒業した大学や、勤務してきた会社に誇りや愛着をもつことは大切ですが、誇りとこだわりは別です。求職活動で要求されるのは、学歴でも勤務した会社の規模でも、かつての肩書きでもありません。問われるのはどんな仕事を、何年担当してきたのか、何のプロかということだけです。実際、企業の採用担当者もかつてのように、どこの学校を卒業し、どこの会社に勤めているかをすぐに尋ねるようなことはありません。
欧米社会では職業を問う際は「What company」でなく、「What kind of job」と聞くのが普通です。日本でもまさにそうなってきています。
いまの求職活動で求められるのは「何ができるか」
就社の時代における採用は、まず人ありきでした。当該年度の採用枠に従って採用を行ない、一定の研修を終えた後に配属先を決めるというやり方です。仕事がその人にとって適職かどうかは別で、ともかく配属し、上司から仕事のやり方をOJTで教わりました。昨今はそれが、まず仕事ありきへと逆転しています。仕事が先にあって、その仕事をこなせる人を採用する形です。
これは本当の意味での適材適所で、そうなると当然、求められるのはプロフェッショナルになります。問われるのは、どの分野でどのような職種でのプロフェッショナルなのかということです。次回以降で詳述しますが、求職活動を開始するにあたっては謙虚に自己をみつめ、次の「三つの何」を分析することこそが大切です。
●いままで何をしてきたのか
●いま何ができるのか
●今後、何をしたいのか
楠山 精彦
関西キャリアデザイン研究所 代表
NPO法人キャリアスイッチ 顧問
和田 まり子
NPO法人キャリアスイッチ 理事長
大阪府産業支援型NPO協議会 理事長
キャリアコンサルタント