廃業を「誰にも相談しなかった」社長が約3割
8つめの要因として、事業承継について相談できる相手がいないということがあります。
少し古いデータになってしまうのですが、2014年の中小企業白書では「廃業支援の在り方」という項目があり、廃業に際して「誰にも相談しなかった」という社長が約3割と書かれています。相談した場合でも、相手が「家族.親族」という人が5割でした。また、「廃業の可能性を感じても、なんらかの対策を取ることがなかった者が半分を占める」との言及もあります。
会社にとって廃業は最後の最後に選択する「究極の答え」であるはずですが、専門家の助言や支援なしに1人で悩んで決断している社長が多くいるのです。
もちろん社長は自分の周りで後継者になれそうな人材を探したはずで、自身でできることは全部試したに違いありません。しかし有効な手立てが見つからず、廃業の日を待つしかない状態にある社長が日本中にいます。
廃業をしたことがない人は簡単に廃業できると思うかもしれませんが、実際に実行するには大変な負担が掛かります。会社を清算するための費用が掛かるだけでなく、社員に廃業を伝えたり次の就職先を紹介したり、取引先との関係を解消したりといった気の重い仕事が山ほどあります。なにより家族に廃業を伝えるのはつらいことです。
専門家に相談ができれば後継者の効果的な育て方を伝授してもらえたり、後継者候補を紹介してもらえたりなど事業承継する道が開ける可能性は高いのですが、多くの社長が適切な専門家とつながれていないために「後継者不在という沼」から抜け出せずにいるのです。
事業承継は経営者に課せられる「最後のテスト」
経営学者のピーター.ドラッカーは「事業承継は偉大なる経営者が受けなければならない最後のテストである」と言いました。社長になったからには事業承継をしてこそ役目を果たしたことになる、つまり事業承継できなければ社長として落第点であるという意味です。事業承継問題に直面している社長にとっては耳の痛い言葉ですが、ドラッカーの考えに私も同意します。
起業することは誰でもできます。資本金1円でも株式会社がつくれます。しかし会社を継承していくことは誰もができることではありません。企業生存率については10年で9割の会社が倒産するともいわれます。
しかし、会社をつくった以上は存続させることが社長の使命です。親から継いだ会社であっても次の後継者にバトンタッチすることが使命なのです。会社は社会資源です。一つの会社がなくなるだけで、地域や業界のサプライチェーンが断絶してしまいます。
分かりやすい例を挙げれば、伝統工芸の職人の世界は、随分前から後継者不足で技の伝承の危機に瀕しています。実際に職人がいなくなり、再現不可能となった工芸品もあります。伝統工芸というのは日本の文化の一つです。職人がいなくなるということは日本文化が一つ消滅することを意味します。その工芸品を仕入れていた業者が困る、愛用していた人が困るというだけの問題ではないのです。
会社というのはそれくらい大切なものであり、できる限り守っていかなくてはいけないものです。社長にはその覚悟をもって、なんとしても事業承継を成し遂げてもらいたいと願います。やり方次第で後継者は1年などの短期間で育ちます。特別な人材でなくても今いる人材を後継者に育てることが可能です。さらには後継者を支える幹部たちも同時に育てることができます。是非とも後継者育成に取り組んで事業承継を果たし、「経営者としての最後のテスト」に合格してもらいたいと思います。
阿部 忠
ホッカイエムアイシー株式会社会長
ユーホープ株式会社代表取締役
埼玉県経営品質協議会顧問
中国江西省萍郷衛生職業学院客員教授
埼玉キワニスクラブ顧問
エコステージ経営評価委員
日本賢人会議所会員