日本企業の実に99.7%は中小企業であり、GDPの5割超を中小企業が担っています。このように、日本経済の根幹を支える中小企業ですが、現在「社長の高齢化」「事業承継」という問題を抱えてる企業が大量にあります。そしていまも、日本のどこかで優れた中小企業が惜しまれつつ廃業しているのです。いくら世界的な技術があっても、後継者がいなければ存続できません。解決の方法はあるのでしょうか。

日本の経済成長の行く末を握る「中小企業」だが…

2021年中小企業白書によると全企業に占める中小企業の割合は99.7%で、従業員のうち7割は中小企業で雇用されています。そして、日本のGDP(国内総生産)の5割以上を中小企業が担っています。つまり、この国の景気や経済成長の行く末は中小企業が握っているといっても過言ではありません。

 

しかしながら中小企業の社長の高齢化が加速しており、事業承継が進んでいません。社長の年齢分布は1995年から2018年の23年間に、ピークが47歳から69歳へと22歳も上がりました。90年代に働き盛りだった社長が、そのまま交代することなく経営を続けて今に至っていると見ることができます。

 

高齢社長のなかには自ら進んで現役を貫いている人もいますが、経営を引き継ぐ後継者がいないためにやむなく続けている人も多くいます。東京商工リサーチが企業の社長に向けて行った「企業経営の継続に関するアンケート調査(2016年11月)」では、70歳以上の社長の8割が誰かに引き継ぎたいと考えています。その一方で、中小企業白書には60代の経営者の約半数、70代は約4割、80代は約3割で「後継者が不在」とあります。

 

後継者不在には「後継者がいない」場合と、「後継者が定まっていない」場合とがありますが、いずれにしても経営のバトンタッチ(事業承継)をすることができない点は同じです。

後継者がいない会社は未来が描けない

事業承継ができないということは、現社長が経営できなくなるまで走り続けるしかないことを意味します。言い方は悪いですが「社長の寿命=会社の寿命」になってしまうため、廃業に向かって直進しているようなものといわざるを得ません。

 

終わりを見ながらの経営はどうしても守りに入ってしまいます。新たな設備投資や雇用などの「攻め」はまずできません。余力で行けるところまで行き、その先はフェードアウト……というのが基本的な流れになります。実際、社長の年齢と会社の業績との相関関係を調べたデータを見ても社長が若い企業ほど増収企業が多く、年齢が高くなるほど減っていく傾向が見られます。

 

また、高齢社長になるほど「リスクを取ってまで事業成長したくない」や「積極的な投資はしたくない」という回答が多くなっています。

 

これらのデータからも分かるように、後継者不在のいちばんの問題は「会社の未来が描けない」ことです。未来が描けなければ社員たちはやる気を失い、組織力が弱まって、すべての仕事がその場しのぎになっていくのは必至です。若い社員なら会社に見切りをつけて、将来性のある別の会社に転職していってしまうでしょう。そうやって事業が希薄化していけば、取引先も泥船には乗りたくないので離れていってしまうことになります。

 

結果として待っているのは廃業ということになりますが、円満な廃業というのは多くありません。私は経営コンサルタントとして30年間、業種もさまざまな中小企業を見てきましたが、たいていの場合、社長は無念を残して廃業することになります。

 

「もうちょっと頑張れたのではないか」「早くから後継者育成をしておけば会社を存続させられた」といった後悔もあれば、廃業に至るまでの経過で社員や取引先が離れていき、孤立化してしまうケースもあります。「会社がなくなってスッキリした」と心からいえる社長はほとんどいないのが現実です。

中小企業の廃業で、雇用650万人、GDP22兆円が消失

事業を畳むことになって最初に社長が心配するのは、おそらく自分に近い人たちのことだと思います。社長業を理解して支えてくれた家族のこと、今までついてきてくれた社員のこと、親戚がなんと思うかなどです。

 

高齢になるまで社長業を頑張ってきたのですから、家族は受け止めてくれるかもしれません。社員には迷惑を掛けますが、これは経緯を説明して次の就職先を探してもらうしかありません。うすうす廃業を感じて心の準備ができていた社員もいるはずです。

 

廃業に至る苦労を知らない人たちは好き勝手言ってきますが、「言いたいように言わせておけばいい」くらいの気持ちでいればいいのです。その次に社長が心配するのは、自身の生きがいや収入源が失われることではないかと思います。

 

会社がなくなったあとどうやって生きていくかはもちろん大きな問題です。しかし、それは新たな生きがいや収入源を見つけることでいくらでも乗り越えることが可能です。

 

会社がなくなることのいちばん大きな問題は、自分の会社だけの問題では済まない点です。廃業は地域や社会に影響を及ぼす社会問題として考える必要があります。

 

平成30年の中小企業庁長官の年頭所感で、当時の安藤久佳長官は次のように述べています。

 

「(後継者不在の)現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があります」

 

つまり、中小企業の後継者不在および廃業は大きく国力を損なう危険を孕んだ「国家的大問題」なのです。社長としてこれまで事業を行ってきた責任において「自分の会社くらいなくなっても大丈夫」という考えは捨てて、本気で事業承継に取り組んでもらいたいと思います。

 

そこで日本の中小企業はなぜ後継者不在の問題を抱えやすいのかについて、要因を掘り下げて考える必要があります。社長自身が要因に気づき、改善していくことが後継者問題の解決につながっていくからです。

 

本来、要因は1つではなく複数が複雑に絡まり合っています。会社ごとに特有の要因もあります。個別の事情を言い出すと切りがありませんが、多くの中小企業に共通で潜んでいる8つの要因があります。自分の会社に思い当たる節がないかという視点で考えてみると、事業承継が進まない原因が見えてくるはずです。

 

8つの要因については、次回以降の記事でくわしくご紹介していきます。
 

 

阿部 忠

ホッカイエムアイシー株式会社会長
ユーホープ株式会社代表取締役
埼玉県経営品質協議会顧問
中国江西省萍郷衛生職業学院客員教授
埼玉キワニスクラブ顧問
エコステージ経営評価委員
日本賢人会議所会員

 

一般社員を1年で後継者に成長させる人材育成術

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阿部 忠

幻冬舎メディアコンサルティング

100年続く会社にするための 後継者育成方法とは―― 中小企業の後継者不在問題は 心理学を取り入れた人材育成で解決できる! 高度経済成長期に創業し、これまで日本経済を支えてきた中小企業の多くが後継者不在問題に直…

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