経営者の「同族経営」前提の思考が問題を招く
1つめの要因として、日本では同族経営で会社を存続させてきた歴史があり、今でも子や孫を後継者にしたいと考える社長が多いことがあります。
日本は世界一の企業長寿国で、世界の100年企業約8万社のうち4割に当たる約3万3000社が日本企業です。200年を超える企業になると日本が65 %を占めます。現存する世界最古の企業は大阪にある578年創業の金剛組(大阪市天王寺区)という寺社建設の会社で、聖徳太子が四天王寺を建立する際に設立されたといわれています。
日本企業が長寿である理由は同族経営にあるとされてきました。国税庁の会社標本調査(2018年)によると日本で活動中の企業の96.3%は同族企業です。金剛組も創業から1300年以上、金剛一族によって経営されてきました。
同族経営は経営資源を子や孫の代、さらにその先へと引き継いでいくため、超長期的な戦略を立てやすくなります。また、跡取りが早くから決まっているため、小さいときから後継者としての意識をもたせ、事業の要職を経験させるなどして一人前に育成することができます。
しかしながら、現代は少子化で子どもの数が少なくなっています。子どものなかに後継者としての器をもった子が育てばよいですが、今は家庭の教育力が低下しているという指摘があるとおり、帝王学を家庭で教育することが難しくなっています。
長男だからといって単純に後継者とはなれないケースが増えているのです。
ものづくり企業でも同じようなことが起こっています。成長できる研修や福利厚生に恵まれている大企業に就職した子どもは、苦労の多そうな父親の会社には行きたくない、自信がないので後継者にはなりたくないというケースが増えています。
家業に縛られないで自分は自分の道を切り拓いていきたい、あるいはなにかと責任の重い経営者より身軽なサラリーマンでいたいと考える子どもは少なくないのです。
こうした背景から子や孫への承継が成立しない事例が目立っています。中小企業の承継先を調べた中小企業庁の資料(全国企業「後継者不在率」動向調査2020年)を見ると、2018年から2020年の2年だけでも同族承継が42.7%から34.2%へ10ポイント近く下落しています。その一方で、内部昇格や外部招聘による承継が増加傾向にあります。
参考までに、日本と同じく同族経営の多いドイツでも後継者不足による事業承継問題が課題となっています。2022年までに事業承継を望んでいる企業約51万社のうち、47%が事業承継の準備ができていません。ドイツでは少子化に加えて、近年の国内の好景気で大企業の管理職への就職が容易になり、家業を継ぎたいと考える人が減ったことが要因とされています。
同じくフランスでも中小企業社長の高齢化が進み、事業承継の促進が政治の重要課題となっています。
日本と外国では事業承継の制度が違うため一括りにはできませんが、少子高齢化が進んでいる先進諸国では、従来は当たり前に行われてきた同族承継がもはや成り立たなくなっているといえそうです。