「別に廃業してもかまわない」…社長の熱意の問題
4つめの要因として、会社存続に対する社長の熱意の問題があります。
通商産業省の出身で「中小企業白書」の執筆も担当された東洋大学の安田武彦先生によると、中小企業の社長のなかには「家業」という認識が強いがゆえに、「自分の会社なのだから承継しようと廃業しようと自分の好きにしていい」と考える人や、「小さな会社なので廃業しても誰も困らない」「事業の将来性がないから誰も継ぎたがらない」と考える人が目立つとのことです。
「家業で細々と収入を得て、そこそこの年齢になったら廃業すればいい、子どもが継がないなら仕方ないという感覚が中小企業では特に多い」と安田先生は指摘します。
10人以上の組織になると社員の生活もあるので簡単には廃業できませんが、大企業に比べると廃業の心理的なハードルはかなり低くなります。
また、安田先生は「そもそも経営者にかかわらず日本は社会が安定しているためにハングリー精神が弱い人が多く、現状維持ができればよいと考えがちです。成長したいと考えている会社や誰もやったことがないことに挑戦しようと考える人は少数派です。今が安定していれば10年先を意識しませんし、元気だから大丈夫と思っているうちに高齢化して事業承継のタイミングを失しているケースが多いです」と分析します。
しかし中小企業庁長官の年頭所感にもあったように、中小企業の廃業が進行していけば大きく国力を損なうことが避けられません。日本はただでさえ人口減少や少子高齢化で労働力が低下しています。経済の専門家のなかには「日本はもはや先進国ではない」という指摘をする者もいるほどです。
世界的投資家のジム.ロジャーズ氏は「日本は借金が増え続け、少子化が止まらないため今後は衰退していく一方だ」という旨を明言しています。中小企業がこのまま後継者不足でどんどん廃業していけば、現状に輪をかけて速いスピードで日本経済は衰退していくことになります。
しかしながら社長が危機感をもっていなかったり、他人事であったりすることが多いのです。これは私が多くの社長を見てきたからこそいえる実感です。日本全体のことまで考えて「廃業を避けて会社を存続させたい」と後継者問題に取り組んでいる社長は決して多くありません。
「うちの会社くらいなくなっても大丈夫」という考えがある限り、本気で後継者問題に取り組むことはできません。「最悪は廃業すればいい」と思ってしまい、必死で後継者を探したり育成したりしようとは思えないからです。結局は本質的な問題解決ができず、事業承継の課題を抱え続けることになるのです。