(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●このところ大幅に上昇している日経平均について、裁定取引に注目し実際の需給動向を確認する。

●先物上昇で、裁定売り残減・買い残増ならネット裁定残高増、現物は需要増で上昇しやすくなる。

●最近の株高はネット裁定残高増の需給改善によるもの、ただ価格のかい離消滅なら改善一服も。

このところ大幅に上昇している日経平均について、裁定取引に注目し実際の需給動向を確認する

日経平均株価は、8月10日に27,819円33銭で取引を終えた後、8月17日の終値は29,222円77銭に達し、上昇幅は4営業日で1,400円を超えました。背景には、①米国でインフレのピークアウトが意識され、利上げペースが鈍化するとの期待が広がったこと、②米小売り大手の決算が市場予想を上回り、景気後退懸念が和らいだこと、などがあり、これらが株価の押し上げ要因になったと推測されます。

 

相場の地合いは、改善しつつあるように思われますが、以下、日本株の裁定取引に注目し、実際の需給動向を確認してみます。裁定取引とは、例えば、日経平均株価の現物と先物の間に、価格のかい離が生じた場合、割高な方を売り、同時に割安な方を買って、その後、価格のかい離が解消したときに、それぞれ反対売買を行って、利益を確定する取引のことをいいます。

先物上昇で、裁定売り残減・買い残増ならネット裁定残高増、現物は需要増で上昇しやすくなる

需給動向について、具体的には「ネット裁定残高」をみていきます。ネット裁定残高とは、「裁定買い残」から、「裁定売り残」を差し引いたものです。前者は、裁定業者(主に証券会社)が一時的に割高となった先物を売り、同時に現物を買うという「裁定買い」取引における、現物の買い残高です。後者は、これとは逆に、一時的に割安となった先物を買い、同時に現物を売るという「裁定売り」取引における、現物の売り残高です。

 

「先物価格が上昇」した場合、裁定売りを行っていた業者が、その取引を解消すれば、先物を売って「現物を買い戻す」ことになるため、「裁定売り残は減少」します。一方、裁定買いを行っていた業者が、その取引を継続すれば、先物を売って「現物を買う」ことになるため、「裁定買い残は増加」します。つまり、先物価格上昇→裁定売り残減・裁定買い残増→ネット裁定残高増→現物需要増→現物価格上昇、という流れになります(図表1)。

 

(注)一般的な流れを示したもの。 (出所)三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]日本株の裁定取引と現物株の需給 (注)一般的な流れを示したもの。
(出所)三井住友DSアセットマネジメント作成

最近の株高はネット裁定残高増の需給改善によるもの、ただ価格のかい離消滅なら改善一服も

では、ネット裁定残高と日経平均株価について、実際の動きを確認してみます。新年度入り後の推移は図表2の通りで、ネット裁定残高の増加(減少)、日経平均株価の上昇(下落)など、両者の動きには高い連動性がみられます。ここから、先物価格の変動が、裁定取引を通じて現物の需給に影響を与え、結果的に日経平均株価の変動につながっていることが読み取れます。

 

(注)2022年4月1日から8月17日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]ネット裁定残高と日経平均株価 (注)2022年4月1日から8月17日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

なお、ネット裁定残高は、8月10日に2億7,292万株でしたが、8月17日には4億2,068万株に急増していることから、やはり、この期間の需給の改善が、日経平均株価の上昇につながったと考えられます。なお、現物価格の上昇などにより、先物価格とのかい離が消滅すれば、裁定買い取引は解消されるため、今度は、裁定買い残減→ネット裁定残高減→現物需要減という流れになりやすく、注意が必要です。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『需給動向からみた、最近の「日本株上昇」の理由【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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