(画像はイメージです/PIXTA)

成年後見制度の第一人者、宮内康二氏著書『成年後見制度の落とし穴』(青志社)より抜粋転載。本書では、後見制度の衝撃実例とともに具体的解決策をわかりやすく解説している。弁護士・福祉家の堀田力氏、経済評論家の山崎元氏も推薦する話題の一冊。

スイスの後見トラブル「亡命、無理心中」

日本の成年後見制度と似た制度は海外にもあります。

 

スイスでは、後見専用の児童・成年者保護局(KESB/APEA)という機関が2013年から後見人になっています。その後見人により、老人ホームに入れられそうになった高齢者は、「どこに住もうが俺の自由だ。『施設に入れ』なんてたまったものじゃない」と憤り、家族でフィリピンに亡命しました。

 

同じく、後見人により、一緒に住むことを禁じられた親子がいます。結果、母親はわが子を手にかけ、自らも刑務所で命を絶ってしまいました。

 

公的な後見機関のせいで国を追われ命を絶つ人が出たスイスの公共放送協会は、「スイスの公的機関の中で最も批判され、また最も嫌われているのは、2013年に設立された専門機関“児童・成年者保護局(KESB/APEA)”だ。一部の市民は同局に異議を唱えるために国民発議に乗り出した」と報道しています(SWI swissinfo.c 2018/01/26)。

 

これは対岸の火事ではありません。日本もスイスのように自治体や法務局などの公的機
関が後見に乗り出す動きがあるからです。

 

平成28年に施行された成年後見制度利用促進法のあおりを受け、半数程度の自治体が成年後見支援センターなるものを設置し始めています。このセンターは、後見をつけてよい
人を地域からあぶり出し、家庭裁判所に差し出すとともに、後見を生業にする社会福祉士
たちの就職先になっていくでしょう。社会福祉士として後見を受任するより、後見センタ
ーの職員になった方が収入は安定し、成年後見に不案内な自治体にとっても、社会福祉士
に業務委託することで楽ができるという利害の一致があるからです。

 

家庭裁判所の事務を補完するため全国の法務局に後見事務センターなるものを設置しようという構想もあります。こちらは、後見を生業にする司法書士の就職先になるでしょう。
これにより、家庭裁判所は楽ができ、司法書士は固定給がもらえるようになります。
この
ように公的機関と士業が組んで後見を提供し始めると、件数を増やさないと予算が削られ
るので後見を使わなくてもよい案件にまで後見をつけ始め、手が回らなくなると、スイス
のように家族を強硬に分離し、関与の手間を省こうと思うのが世界共通だからです。

ブリトニー・スピアーズ、後見人に「避妊器具を装着」させられ…

アメリカでも後見トラブルはあります。2021年11月、ロサンゼルスの裁判所は有名歌手であるブリトニー・スピアーズを成年後見制度から外す決定を下しました。来日経験のある歌姫ブリトニーは、自らについた後見人のせいで13年間、自分のお金を自由に使えませんでした。自動車の運転も制限され、避妊用具を体内に設置させられたようです。それはおかしいと、彼女のファンなどが「ブリトニー解放運動」を起こし、後見制度から脱出することができたわけです。

 

後見制度からの脱出のみならず、ブリトニーが住むカリフォルニア州では、被後見人のためにならないことをした後見人に500万円の罰金が課せられることになりました。後見人は被後見人が選ぶようにもなったようです。いずれも後見業界では画期的な改革ですが、日本ではこの報道が特にされることなく、むしろかき消されているようにさえ感じます。

 

罰金や人事権の変更という運用は、家庭裁判所や弁護士や司法書士後見人に都合が悪いからだと思います。日本の家庭裁判所や家庭裁判所が選ぶ弁護士や司法書士は大丈夫という「お上の、国意識」から抜けきれない人が少なからず残存していることも、後見に関する海外の報道や国内の不満がまとまった声にならない要因かもしれません。しかし、そのような思い込みは、本書で紹介するトラブル事例によって綺麗に拭い去られることでしょう。


 

本連載は、2022年7月8日発売の書籍『成年後見制度の落とし穴』(青志社)から抜粋したものです。その後の制度改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

成年後見制度の落とし穴

成年後見制度の落とし穴

宮内 康二

青志社

「弁護士、司法書士などの後見人と、家庭裁判所などの行政へ! 現状の改善と向上に向け告発する! 」 いま社会問題となっている成年後見制度について、衝撃実例と実用集をあげてわかりやすく解説。自分の老後と親亡きあとの気が…

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