(※写真はイメージです/PIXTA)

日本人の死因第2位を占めるのは「心疾患」ですが、中でも特に死亡率が高いのが「心不全」です。心不全は一度発症すると完治しないため、発症させないことが第一ですが、もし発症してしまった場合には、再発・増悪を予防する「治療」が欠かせません。本稿では、自宅でできる取り組みとして「口腔ケア」の重要性を見ていきましょう。心不全の再発予防策としてだけではなく、心疾患やほかの病気の予防にも役立つ内容です。“心疾患・心臓リハビリ”の専門医・大堀克己医師が解説します。

歯周病は「脳」や「心臓」に重篤な疾患を起こす

近年、心不全を含む心臓病と歯周病の関係性に注目が集まっています。

 

その一つに、歯周病と動脈硬化の関係が挙げられます。歯周病菌やそれらが出す毒素が血液中に侵入すると、血管の内側の膜(血管内膜)に定着し、炎症を起こします。その後、菌や毒素は柔らかいコブのようなものになって血管内に蓄積し、どんどん内膜は厚くなります。

 

このコブのことを「粥腫(アテローム、プラーク)」、粥腫ができた血管の状態を粥状(アテローム)動脈硬化といいます。そして、この状態が進行すると血栓が作られ、動脈硬化が起こります。その結果全身の血流が悪化して心臓や脳に負担が掛かり、心筋梗塞や脳梗塞などをはじめとする、重篤な疾患が起きてしまうのです。

 

実際、粥腫の部位から歯周病菌の遺伝子が検出されており、口腔内と心臓の関係性は、今、とても注目度の高いテーマです。こうした動脈硬化の発症はこれまで欧米に多く、日本には少ないといわれていましたが、生活習慣や食生活の変化とともに現在では日本でもよく見られるようになりました。

歯周病は「口の中だけの問題」ではない

そのほか、歯周病は糖尿病の原因にもなります。糖尿病の人は健康な人よりも細菌に対する抵抗力が下がっており、また、組織の回復力も衰えています。そのため、糖尿病の人は健康な人に比べて歯周病にかかりやすい状態になっています。

 

その一方で、糖尿病の人が歯周病になると歯周病による炎症で生じる物質がインスリンの機能を低下させ、血糖値のコントロールを難しくして病状を悪化させてしまいます。

 

また、歯周病菌が食べ物と一緒に誤って肺へ入り込むことで「誤嚥性肺炎」を引き起こすことや心臓の中に入り込んだ歯周病菌が心臓の弁や心内膜の小さな傷などに付着し炎症を起こしたり弁を壊してしまったりする「感染性心内膜炎」を起こすこともあります。さらにまだ研究段階ではありますが、歯周病は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とも深い関わりをもつのではないか、といわれています。

 

歯周病は決して口の中だけの病気ではありません。歯がグラグラしたり抜け落ちたりするようなことにならない限りなかなか自覚症状が出ないため、あまり気にしていない人も多いと思いますが、実際には命のリスクを招くこともある怖い病気です。

「1日3回以上の歯磨き」で心不全リスクが12%低下

現在、日本では、成人の約8割が歯周病にかかっているという研究データもあります。

 

しかし、そのほとんどが治療をせず放置しているため、将来的に歯を失うリスクが高くなっています。実際のところ、日本人が歯を失う原因として最も多いのは歯周病です。

 

2018年に全国2345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果によれば、歯が失われる原因で最も多かったのが「歯周病」(37%)であり、以下「むし歯」(29%)、「破折」(18%)と続きます。また、2019年、韓国・梨花女子大学医学部が発表したところによれば、1日3回以上歯磨きをする人は、そうでない人に比べ、心不全を発症するリスクが12%低下することが分かりました。

 

毎回、食事のあとにきちんと歯を磨く人は、心臓病のリスクを下げることができるのです。改めて、歯磨きの習慣を見直すことが大切です。

 

もちろん、「ただ磨けばいい」というのではなく、磨き残しがないようしっかり確認することも大切です。歯並びが悪いなどの理由で、きれいに磨くのが難しい場合は、歯間ブラシやフロスを使うのもよいです。

 

最近では、内科や循環器科などの病院やクリニックが、歯科医院と提携し、病棟の患者を往診したり、歯磨き教室を開いたりすることもあります。一例として私の病院では、数年前から歯科医院と提携し定期的に病棟の入院患者を診察してもらうほか、管理栄養士が患者に栄養指導を行う際、歯科医師にも同席してもらい、口腔内のチェックも行っています。

 

これにより、歯周病の患者が減少しただけでなく、「毎日きちんと歯を磨くことは心臓病の予防にもつながるのだ」という意識付けが確実になり、患者自身が自ら病気を治そう、予防しようというモチベーションを高くもつようになりました。

 

さまざまな研究により歯周病と心血管病の因果関係が明らかになっていることを踏まえ、厚生労働省が国民健康づくり運動として提唱している「健康日本21」でも、歯周病は全身の健康に悪影響を与える危険因子として位置付けられています。

 

いまや歯周病の予防や治療がとても大切であることは、社会の常識になりつつあります。特に高齢者の場合は加齢によって唾液の分泌量が減少しており、本来なら唾液で洗い流されるはずの細菌が増殖し、歯周病に進行しがちです。また、加齢によって免疫力も低下しているため、いっそう歯周病には気を付けなければなりません。

 

「歯周病は、ただの口の中だけの問題」と考えず、毎食後の歯磨きをきちんと習慣化することが大切です。

 

 

大堀 克己

社会医療法人北海道循環器病院 理事長

 

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    ※本記事は、大堀克己氏の著書『心不全と診断されたら最初に読む本』(幻冬舎MC)を抜粋・再編集したものです。

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