妊娠中の血糖管理目標はどう設定すればよいのか?
妊娠中の血糖管理を厳格に管理する目的は、何といっても母児を健全に守るためです。特に、巨大児や形態異常の発生を防ぐことに繋がります。したがって、食事療法と運動療法で可能な限り、健常妊婦の血糖日内変動に近づけることを目標にします。それでもなお、目標を達成しない場合は、インスリン治療を行います。
インスリンは膵臓のβ細胞で作られている、体の中で唯一血糖値を下げる作用を持っているホルモンです。このため、元々体内にあるものを外から補うので、妊婦さんにも安全に使用することができるのです。一方で、基本的にすべての経口血糖降下薬は妊婦には使用できません。
「糖尿病診療ガイドライン2019」では、妊娠中の血糖管理目標として、空腹時血糖95mg/dL以下、食後1時間140mg/dL以下、食後2時間120mg/dL以下を目標にしています。以上の血糖値を目標として、インスリン治療が行われますが、具体的な方法については、糖尿病専門医の外来で丁寧に指導を行ってくれます。
出産後の妊娠糖尿病について
無事に出産が終わると、母体は劇的にインスリン抵抗性が減弱します。これにより、インスリン必要量は急速に減少するため、原則として、分娩後ただちにインスリン療法は中止となります。
しかしながら、注意しなければならないことは、妊娠糖尿病を認めた場合、将来的な2型糖尿病の発症リスクが、妊娠糖尿病を認めなかった人に比べ7.43倍高いと報告されています。このため、まずは産後1カ月健診などに合わせて、75ℊ糖負荷試験という、糖尿病診断に用いられる検査を行って、正常耐糖能に戻っているか否かを確認する必要があります。
また、たとえ正常耐糖能に戻っていたとしても、将来的に太ってしまうと、先述のように糖尿病発症リスクが高まるため、年に1回の健診等にて、体重・BMIと血糖値・HbA1c値を随時チェックしていきましょう。
以上のように、妊娠糖尿病になったとしても、正しく治療を行っていけば、母児共に安全に出産し終えることができ、さらに出産後も生活習慣に気を配り続ければ、将来的に糖尿病発症も防ぐことができます。
妊娠中は様々に不安なことがあると思いますが、過剰に自分だけで心配するのではなく、まずはかかりつけの医師や看護師さん達としっかりコミュニケーションを取りながら、必要であれば、専門の医療機関に紹介してもらうなどして、安心して出産に臨んでもらえればと思います。
佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表