(※写真はイメージです/PIXTA)

商品やサービスを一般消費者に向けて提供する「B to C(Business to Consumer)」企業と異なり、法人に向けて事業を行う「B to B(Business to Business)」企業は、マスコミへの営業が有利ではありません。日本経済新聞の記者から「B to B」企業広報に転身した日高広太郎氏の著書『BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)で効果的な戦略を解説します。

広報マインドを持つことと越権行為は違う

広報マインドを持つことについて誤解があるといけませんので、付け加えておきます。経営陣や広報部以外の従業員の方々が、メディアや広報に関心を持ったり、広報マインドを持ったりするのは、会社にとってとても良いことですし、広報担当としてはありがたいことでもあります。

 

ただし、気をつけたいのは、広報マインドを持つというのは「広報部を差し置いて、広報とは違う部署に所属する自らが勝手に広報活動を実施することではない」ということです。広報活動やメディアへの対応には豊富な経験とメディア関連の専門知識が必要です。知識や経験、能力などが不足している専門外の人が勝手に広報活動をやると、誤解を招く記事や批判記事などを招くリスクがあります。メディアに慣れていない人が取材を受けると、意図せざる情報漏洩を引き起こすこともあります。

 

情報漏洩した本人は「記者とは世間話をしただけで、取材を受けたつもりはなかった」と言うことがありますが、そんな言い訳は通用しません。記者やメディアはそんなに甘くないのです。メディアに記事が出た場合、情報を勝手に漏らした人は処分される場合もあります。

 

広報に相談せずに自らをメディアに売り込んだり、勝手に取材を受けたりする「間違った広報マインド」は、広報担当だけでなく、会社全体に迷惑をかけてしまいます。専門外の人が広報活動まがいのことをするのは、社外の評判も良くありません。記者やディレクターなどから「なぜ広報部以外の人が直接連絡してくるのですか?」などといぶかしがられ、通常の広報活動を妨げるリスクもあります。

 

もちろん、記者が特ダネを取るために、早朝や夜に大企業の社長や幹部が帰宅するのを待ち構えて取材する(朝回り、夜回りなどと言います)ことはあります。こうした場合も、取材対象の経営幹部らは「どこまでを記者にリークしてよいか」を広報担当らと共有しているケースが多いと思います。経営陣が勝手に企業の秘匿情報を記者に漏らし始めてしまっては、企業として統制が取れなくなってしまうからです。正しく広報マインドを持ち、それを実践するというのは、PRの専門家である広報部と協力して広報活動を行うこと、広報部の活動を側面支援するということです。

 

念のために断っておきますが、「広報部に断りもなく、勝手に他の部署が広報活動をしてはいけない」という考え方は、いわゆるセクショナリズムをおすすめしているわけではありません。

 

セクショナリズムは、自分の属する集団の利益・利権などに固執しすぎて、他の部署や他の集団に対して排他的もしくは非協力的になることです。こうしたことを考えると、広報部と協力せず、他の部署が勝手に自分たちだけで専門外の広報活動をやることこそがセクショナリズムと言えるでしょう。自分の部署の利益だけを考えるセクショナリズムを排し、広報部と経営陣、広報部以外の部署の方々が協力して広報活動をやっていくことこそが成功のカギであり、推奨されるべき姿です。

「広報は専門性がない」は大間違い

広報を単なる「金を稼げないコストセンター」などととらえ、存在を軽視する方々の中には、「広報には資格がいらないから誰でもできるし、専門性がない」と言う人もいます。しかし、本当にそうでしょうか? 世の中には資格はいらなくても、専門性の高い、難しい仕事はたくさんあります。

 

例えば、プロ野球選手に資格は必要ありませんが、プロ野球で活躍することがいかに難しいかを多くの人は理解し、活躍している選手に敬意を払っています。著名なプロ野球選手について「野球には資格がないから、専門性がない」などと過小評価する人がいらっしゃるでしょうか? 仮にいたとしても、そんなことを言えば、多くの人から「無知な上に偏見に満ちた人だな」と思われ、軽蔑されてしまうでしょう。

 

これはプロスポーツ選手に限らず、素晴らしい芸術家やその道に精通している専門家など多くの分野の方々にも言えることでしょう。「資格がないから自分より下だ」などと言うのは、「学歴が低いから自分より下だ」と言うのと同じくらい偏狭かつ低いレベルの考え方だと私は思います。

 

より一般的に、会社で働いている人たちに目を向けてみても同じです。例えば、営業担当になるのには必ずしも資格は必要ありません。しかし、優秀なセールスパーソンは存在します。経理も資格がなくてはできないという決まりはありません。資格はなくても、優秀な経理担当者はいます。逆に、営業関連の資格は持っているが結果を出せない営業担当者や、会計関係の資格は持っているがあまり優秀ではない経理担当者も存在するのではないでしょうか?

 

広報も同じで、優秀な人もそうでない人もいます。こうしたことを考えれば、「広報は資格がいらないから専門性がない」などという考えは、大きな間違いだということがわかるでしょう。「広報など誰でもできる」などと軽く考えている人が広報活動をやったとしても、実際には、広報やメディアについての知識も能力もなく、まったく対応できないことにショックを受け、「自分にはとてもできない難しい仕事だ」ということをようやく悟るでしょう。

 

私は、広報という仕事はマニュアルで動くことができないだけに、資格さえあればできる仕事(そんな仕事があればですが)よりもノウハウの取得がずっと難しいと考えています。

 

特にBtoBや中小企業の広報は容易ではありません。メディア関連の経験と社内ニュースをわかりやすく説明する能力、営業能力、記者と持続的な信頼関係を構築する能力──優秀な広報担当者になるための条件を挙げれば、切りがありません。こうした経験や能力を身につけるには個人の向き・不向きもありますが、広報活動への熱意やメディアを理解するための努力、一定の時間などさまざまな修練が必要になります。「広報は誰でもできる」などと思っている人がいるようであれば、そうした誤解や偏見は、会社にとっても自分にとっても「百害あって一利なし」であることを認識したほうが良いでしょう。

 

日高広太郎

広報コンサルティング会社 代表

 

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    日高 広太郎

    すばる舎

    日本経済新聞社のエース記者として活躍し、東証一部上場の「BtoB企業」の広報担当役員に転身、年間のメディア掲載数を就任前の80倍以上に増やした広報のプロフェッショナルである著者。現在は独立し、広報コンサルティング会社…

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