痛みと「ストレス」の間に「強い関係性」があるワケ
最後に、腰痛対策として、ストレス対策が挙げられていましたが、これは痛みを感じるメカニズムと関係があります。痛み刺激を受けると、脊髄から脳内の視床へ、そして大脳皮質へと刺激が伝導され、痛みを感じます。ところが、神経系は痛みを感じるだけでなく、実は、そのあとに痛みの抑制機構が働き、いつまでも痛みを継続させない仕組みにもなっているのです※。
※ 痛みと疼痛の基礎知識ー痛みの学説と電気刺激治療の歴史小山なつ 理学療法学 40(8):726-731,2013
具体的には、ドーパミンやオピオイド、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が放出され、疼痛とうつう経路が遮断されます。
確かに、痛みを感じるのは生物の生存にとって必要なことでしょうが、いつまでも強い痛みを感じていると、ほかの行動ができなくなります。とても合理的な調節機構が備わっていると感心してしまいます。
ただし、実際に強い痛みを感じる場合には継続することが多いので、痛みの抑制機構がどの程度働いているのか、どうしたら確かめられるのか、という疑問も残ります。
さらに、痛みの感じ方には、心理的な状態も大きく影響します。
慢性的にストレスやうつ、不安を抱えていると、上に述べた痛みの抑制経路が抑えられてしまい、ドーパミンなどが放出されにくくなってしまいます。その結果、痛みをより強く、より長く感じるそうです。そこで、そういったストレス対策として、ストレスとなっている原因を除去する、楽しいことを考えたり実行したりする、などが効果的です。
ただし、慢性疼痛を訴える方は、「いつも痛い」、「ずっと痛い」と思い込んでしまっているので、なかなか気持ちを変えさせることは困難だと思われます。
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近藤 靖子
和歌山県和歌山市に生まれる。京都大学医学部および同大学院卒。医療に関しては麻酔科、眼科、内科、神経内科、老年内科の診療に従事。1994年家族と共に渡米し、オハイオ州クリーブランドのクリーブランドクリニックにて医学研究を行う。その後、ニューヨーク州ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学、テキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターにて医学研究に従事。2006年末に帰国し、2008年千葉県佐倉市にさくらホームクリニックを夫と共に開院し、主に高齢者医療を行う。