M&Aの今後の方向性
■M&A業界の質の向上を目指す自主規制団体が発足
高齢を迎えたものの自身の周りに後継者は不在なことから、事業承継を目的とした中小企業のM&Aの市場は今後も拡大するに違いありません。
一方で、簿外債務や表明保証に関して、また売り手・買い手とM&A仲介会社の間の情報格差によって、トラブルがあることも事実です。
M&Aビジネスの参入には特別な資格が必要ないため新規参入企業は多いのですが、すべての企業が国の定めるガイドラインや各種法令を順守しているわけでもありません。
こういった課題を受け、仲介大手の日本M&Aセンターなど業界関連5社は2021年10月に、業界のサービス品質向上を目指す自主規制団体を立ち上げ、コンサルタントの育成支援や苦情相談窓口を開設すると発表しました。
また、M&A仲介会社によっては、売り手と買い手の双方から手数料を徴収していて、利益相反になる可能性を中小企業庁は指摘するなど、現状のビジネスモデルにメスが入る可能性もあります。
そうした流れに伴い、最近は買い手だけから成約手数料を徴収する、もしくは仲介や成約の手数料が発生しないといったサービスも登場しています。ただし、これらは企業努力によるものであり、今後は透明性の高い仕組みが、法的に定められる可能性もありそうです。
なお、現在は「M&Aスペシャリスト資格」「JMAA認定M&Aアドバイザー」「M&Aエキスパート認定資格」「事業承継士」といったM&A・事業承継関連の民間資格がありますが、M&Aに携わる人材育成の面で有資格者を増やす取り組みが加速するかもしれません。
さらに将来的には、M&A仲介会社としてサービスを提供するには監督官庁による許認可を受けることが求められるなど、業界を取り巻く規制は強化される可能性もあるでしょう。
一見すると厳しい対応に思いますが、課題を抱える企業が安心してM&Aに取り組むことができ、市場を拡大させるために避けて通ることのできない取り組みなのかもしれません。
私自身も業界に携わる者として、今後の動向を注視したいと思います。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長