さらに、コンサルタントが提供するのはあくまで経営術であって、アカデミックな経営学ではありません。
医学も経営学もともに学問であり複雑な現実の現象から単純な示唆(implication)を得る作業です。
学会や研究会の発表の際の結論の項目でしばしば認めるのですが、いろいろとデータを検討した結果、最終の結語で「結局一症例ずつ工夫して診療すべきです」といったような結論では、複雑な現象を複雑に解釈しただけであり、学問とは呼べないと考えます。
複雑な現象を複雑に解析し、シンプルな結論を得て、示唆をメッセージとして送ることが重要です。英語ではKeep it simple, stupid(KISS)と言われます。
また優れた暗黙知を持っているならそれは誰もが模倣できる形式知に作りあげていくことが必要です。
医師は常に医療職全体のリーダーであり、たとえ部長や院長といった管理者でなくてもリーダーシップを発揮すべき立場にあります。
しかし、医学部の教育では経営学やマネジメントに関する教育を受ける機会は与えられませんでしたし、臨床医の多くがプレイングマネジャーであり、マネジメントのみに徹することができないのが現状です。
また病院においては臨床医として周囲から尊敬されているプレイヤーが管理者の立場に就くことが一般的で、マネジメント力がないのも仕方のないことかもしれません。
しかし臨床医学も経営学も、研究対象は人であり、最終的には「人間とは何か?」を考え、人間の幸福を追求する学問と言えます。
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角田 圭雄
愛知医科大学内科学講座肝胆膵内科学准教授(特任)。一般社団法人日本医療戦略研究センター(J-SMARC)代表理事。医師、博士(医学)、MBA(医療経営学修士)。
1970年大阪府生まれ。1995年京都府立医科大学卒業、2002年京都府立医科大学大学院で博士号(医学)を取得。市立奈良病院消化器科部長、京都府庁知事局知事直轄組織給与厚生課健康管理医(総括)、京都府立医科大大学院医学研究科消化器内科学講師を経て2016年10月から現職。2015年英国国立ウェールズ大学経営大学院でMBA in Healthcare Management(医療経営学修士号)を取得。立命館大学医療経営研究センター客員研究員を兼任。日本肝臓学会評議員・指導医。日本消化器病学会評議員・指導医。日本医療経営実践協会医療経営士3級。
著書に『最新・C型肝炎経口薬治療マニュアル』(2016年4月、編集および共著)『症例に学ぶNASH/NAFLDの診断と治療|臨床で役立つ症例32』(2012年4月、編集および共著)、『最新!C型肝炎治療薬の使いかた』(2012年10月、編集および共著)、『見て読んでわかるNASH/NAFLD診療かかりつけ医と内科医のために』(2014年8月、編集および共著)