遺留分も行使させないようにする「相続人の廃除」
陽子さんは、遺産をすべて太郎さんに相続させるという遺言を書いていますので、陽子さんに万一のことがあると、遺産はすべて面倒を見ずに陽子さんを虐待した太郎さんが相続することとなってしまいます。
遺言書は一度書いても何度でも書き直すことができます。そこで、陽子さんは、新たな遺言書を書いて、太郎さんに相続させる遺言を取り消し、花子さんに遺産を全部相続させることができるという選択肢③も正解です。
ただし、遺言書で花子さんに全部相続させると書いたとしても、太郎さんには遺留分がありますので、相続を発生した際に、遺留分を行使することが可能となります。
この遺留分も行使させないようにするのが、相続人の廃除という制度となります。
これは、相続人となる予定の者が被相続人を「虐待し」または「重大な侮辱をし」あるいは「著しい非行」をした場合に、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てることにより、あるいは遺言に記載することにより、相続人となる予定者を相続人でなくする手続です。
被相続人が、生前に家庭裁判所に申し立てるか、遺言で相続人の廃除を記載し、被相続人死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをして、家庭裁判所が認めることが必要となります。
いずれにせよ、相続人の廃除は被相続人が生前に、家庭裁判所に申し立てるか、遺言書に記載するかをしないとできない、即ち被相続人が亡くなった後では相続人の廃除をしようとしてもできないので、注意が必要です。
本件では、太郎さん夫婦は、陽子さんに対し、暴言を吐き、悪態をつくなどし、ときには暴力を振るうなどしていたので、被相続人の虐待あるいは重大な侮辱に当たり、相続人の廃除ができると考えます。
したがって、陽子さんは、遺言書で、太郎さんを相続人から廃除することができるが正解となります。
以上のことから、今回は、選択肢①②③④のいずれも正解となり、陽子さんは選択肢②③④の手段をとることが可能となります。
ただし、実際に法的手続を取るときには、太郎さんが暴言を吐き、悪態をつくなどし、ときには暴力を振るうことを立証する必要があり、暴力を振るわれた際に写真を撮ったり警察に相談に行ったりしておいたり、毎日何を言われたかノートに記載しておいたりしておく必要があります。これらがなかなか難しいところかもしれません。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士
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