「物盗られ妄想」どう対応すれば有効?
対応としては、「そうですか」と一応認め、なくなったものを一緒に捜したり、ほかの話題に気持ちをそらせる、などが有効と言われています。
私の患者さんの中には、デイサービスを始めたりなどして気持ちが外に向かうと、妄想がおさまった方もいます。
ところが、妄想に対する思い込みが非常に強く日常的に繰り返される場合には、責められる家族は「こんなに面倒を見ているのになぜ?」とショックを隠せません。
親子の仲が悪くなったり、世話をしている家族が精神を病んでしまったりすることがあります。
「昼夜逆転」「徘徊」…症状が進行する前に
そのほかの認知症の精神症状や異常行動で、家族の負担が大きいと思われるのは、昼夜逆転や夜間せん妄、屋外に出て行ってしまう徘徊などです。
毎晩夜になるとパジャマを外出着に着替え、「行かなくちゃ」と言って家を出ようとする患者さんがいましたが、ご家族が対応に音をあげ、ついに施設に入居となりました。
また、普段は独居で何とか過ごしていた方が、ある日出かけて迷子になり、警察のやっかいになった例もいくつかあります。ご家族がそれを機会に同居したり施設入居を予定したりしています。
ここに挙げた例のように、認知症の症状が進行し、家族が困り切ってから対応策が取られることが、現実では怏々(おうおう)としてあります。そういう後手に回る対応では、家族が疲弊したり、精神的に追い込まれてうつ病になったりする可能性が高くなってきます。
従って、前もって認知症が進行することを予想し、介護の手配を早めにすることが大切だと思われます。
私の講演でもそういう趣旨のお話をしましたが、聞いていただいた方々はそう納得されたでしょうか? 自分の家族の場合は、病気がもっと進むという現実を受け入れられなかったり、医者にかかって薬を飲んでいるので大丈夫だろうと思ったりしている方が多いのではないかと思います。
「認知症のリアル」を受け入れてもらうために、これからも患者さんの家族にいろいろとアドバイスをしたいと思います。
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近藤 靖子
和歌山県和歌山市に生まれる。京都大学医学部および同大学院卒。 医療に関しては麻酔科、眼科、内科、神経内科、老年内科の診療に従事。1994年家族と共に渡米し、オハイオ州クリーブランドのクリーブランドクリニックにて医学研究を行う。 その後、ニューヨーク州ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学、テキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターにて医学研究に従事。 2006年末に帰国し、2008年千葉県佐倉市にさくらホームクリニックを夫と共に開院し、主に高齢者医療を行う。