③抗生剤の頻回使用、長期使用
PPI以上に乱用されている薬としては、抗生剤があります。昔は、少し風邪を引いただけでも抗生物質が処方されることが多くありました。風邪は本来ウイルス感染なので、抗生剤は効きません。しかし、「念のため」という名目で、抗生剤がおまけのように処方されることが実に多かったのです。現在、その傾向は少なくなってきているとはいえ、まだ完全になくなったわけではありません。
フレミングによって、青カビからペニシリンという抗生剤が発見されたのが、1929年のことです。抗生剤の発見により、感染症で死亡することが劇的に低くなりました。ピロリ菌除菌による胃潰瘍の治療以上に、治療のパラダイムに劇的なシフトを起こしたのが抗生剤の発見です。しかし、感染症で死亡することが少なくなり、非感染性の慢性疾患が増えている現代社会では、むしろ抗生剤の乱用のほうが大きな問題になっています。
抗生剤は無差別に細菌を殺すので、マイクロバイオータにも影響を与えます。マイクロバイオータは通常でも数千種類の菌がいると言われていますが、抗生剤を頻回、あるいは長期使用することでこの種類が減少します。この「多様性の消失」こそが、腸管ディスバイオーシスと言われる病態の本質です。1960年以降、感染症が激減して慢性疾患が増えてきた原因の一つとして、抗生剤の乱用によるマイクロバイオータの乱れやリーキーガットが関係しているという意見もあります。
先ほどの風邪(ウイルス感染)の場合に抗生剤を使用するというのは論外ですが、繰り返す感染症に対して、腸管を保護することをあまり考えずに抗生剤を何回でも処方されることは日常診療でも決して珍しいことではありません。
「抗生剤は良くない」と言って、すべて敵視することは問題がありますが、必要な場合には、プロバイオティクスを多めの量で飲むとか、善玉菌を増やすのを助けるプレバイオティクスを多めに飲むとか、マイクロバイオータを防御することを意識した上での治療が求められます。ただし、通常の保険診療では、ここまでをカバーすることができません。病院の先生に任せておけば大丈夫、というのではなく各自が自分の腸内環境や身体を守るという意識を持つことが大切です。