(※写真はイメージです/PIXTA)

現代社会で多くを占める慢性疾患の発症要因には、腸内環境や「リーキーガット症候群」の有無が大きく関わっていると分かってきました。リーキーガット症候群を中心に、これらを発症・悪化させる要因について見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

②制酸剤(H2ブロッカー、プロトンポンプインヒビターなど)

胃潰瘍(かいよう)や逆流性食道炎に使用されることの多い制酸剤ですが、腸内環境の立場から見ると、過剰投与されることはマイナスの作用を起こすことが分かっています。そもそも胃酸というのは、一番重要な自然免疫の一つです。食物中に含まれる雑菌はまず胃の中で胃酸と混ぜ合わされることによって殺菌されます。胃酸がきっちりと機能することで十二指腸以下に雑菌が入り込みにくくなっているのです。制酸剤が必要以上に長期間使用されると、この自然免疫の作用が低下し、十二指腸以降に雑菌が流れ込むことになります。これはマイクロバイオータ(腸内フローラ)のバランスの乱れの原因となります。後で詳しく説明しますが、マイクロバイオータの乱れは、腸管バリア機能低下の大きな要因となります。

 

さらに胃酸にはもう一つ重要な働きがあります。ペプシンはタンパク質を分解する消化酵素の一つですが、実はペプシノーゲンという前駆物質から胃酸の働きで活性化されるのです。つまり、胃酸がない状態ではペプシノーゲンは活性型のペプシンに変換されません。ペプシンはタンパク質を分解する強力な消化酵素の一つなので、ペプシンが十分に分泌されないと、食事中のタンパク質を分解する機能が低下します。このことは、先に述べた未消化のタンパク質が十二指腸以降に流れ込む原因となります。

 

胃潰瘍の原因としては、攻撃因子である胃酸が過剰状態になっていることか、防御因子である粘膜バリアが低下していることが関与していると、以前は言われてきました。攻撃因子と防御因子とのバランスが崩れると胃潰瘍になると考えられてきたのです。そして、制酸剤は攻撃因子が強くなり過ぎないようにするために、胃潰瘍の治療薬としてはなくてはならないものでした。

 

しかし今では、胃潰瘍を発症する人を調べた研究では過酸状態になっている人は少なく、防御因子が低下していることが主な要因であると分かっています。西洋人と異なり、特に日本人で過酸状態の人は非常に少ないです。

 

その後、胃潰瘍の原因はヘリコバクター・ピロリという菌(以下ピロリ菌)の感染であることが発見され、治療はピロリ菌を除菌することが第一選択となったのです。これまでは攻撃因子と防御因子とのバランスの崩れが原因と考えられてきたのが、実は感染症であることが分かったことは、医学の歴史に特記されるべき衝撃的な発見でした。さらには、ピロリ菌は胃がんの原因になることも分かり、ピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍の治療や胃がん発症の予防として標準的治療となりました。

 

しかし、ピロリ菌除菌によって新たに発生してきた問題があります。ピロリ菌は胃の粘膜の防御機能を低下させるとともに、胃の粘膜を萎縮させる作用があります。除菌治療を行うことで、萎縮した胃の粘膜が再生し胃酸分泌能が回復することで、逆流性食道炎を合併する症例が増えてきたのです。胃潰瘍は治ったけれども、逆流性食道炎の症状が強くなるというのはとても皮肉なことです。そして、除菌後に発症した逆流性食道炎に対して、強力に胃酸分泌を抑えるプロトンポンプインヒビター(PPI、プロトンポンプ阻害薬)という薬が多く使われるようになりました。

 

PPIは、胃潰瘍の治療としても使用されてきましたが、よほど難治性の胃潰瘍でもない限りそれまでにあったH2ブロッカーでも十分に対処できるので、臨床医の間では、どうしてもPPIを使用しないといけないという実感がありませんでした。しかし、胃潰瘍の標準的治療としてピロリ菌の除菌が推奨され、それに伴って逆流性食道炎を起こす症例が増えると、劇的にPPIの使用量が増えてしまったのです。なんとも皮肉なことです。

 

PPIはH2ブロッカーよりも胃酸を抑える作用が劇的に強いです。そのため、先に述べたように、未消化なタンパク質や食物に含まれる雑菌が大量に十二指腸以降に流れ込む結果になったのです。PPIが発売された当初は「長期使用しても安全な薬」という触れ込みで販売促進がされていたと思います。しかし、その後の臨床研究でPPIを長期使用することにより、マイクロバイオータのかく乱が起こり、さまざまな消化管の不具合が起こると分かってきています。

 

その例の一つとして、SIBO(小腸細菌過剰増殖症候群)があります。これはその名の通り、通常であれば細菌が非常に少ない十二指腸に細菌が過剰に増殖することにより、さまざまな症状を起こす病態です。糖質や発酵食品を摂るとお腹が急激に張ってきたり、下痢をきたしたりするようになります。また、小腸内に異常にガスが発生するため、ガスが胃内に逆流してゲップやむかつきのような、逆流性食道炎と区別のつきにくい症状が起こることがあります。実はSIBOが原因で起こっている症状なのに、病態を知らないばかりにさらに強い制酸剤が使用されている場合があります。

 

最近PPIは、少し胃が痛かったり重かったりするなど、胃の不調を起こす人に対しても、処方されることが多くなってきました。そもそも過酸状態であることが少ない日本人に対しても、少しでも胃の症状があれば、気軽に第一選択薬として処方されるようになっているのです。

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自己治癒力を高める医療 実践編

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