(※写真はイメージです/PIXTA)

いくら天才的な頭脳の持ち主がいて先進的な技術の種があっても、社会の仕組みが彼らのモチベーションを喚起し、トライアンドエラーへと立ち上がらせるようなものになっていない限りイノベーションは生まれません。19世紀イギリスで「産業革命」というイノベ―ションが成立したのは、単に「蒸気機関が登場したから」ではなく、これらが当時のイギリスにあったからでした。イノベーションを起こすには何が必要か。本稿では、イノベーション大国・アメリカを例に見ていきましょう。

イノベ―ションを促すアメリカの資本主義

なぜこれほどまでの劇的な社会発展がアメリカで可能であったのか、先のアセモグルとロビンソンはこう説明します。

 

「合衆国における特許取得を巡る注目すべき事実は、特許を与えられるのが金持ちやエリートだけではなく、あらゆる境遇、あらゆる階層の人々だったということだ。(中略)19世紀の合衆国ほど、政治に関して民主的な国が当時の世界にほとんどなかったのと同じように、イノベーションに関してもこれほど民主的な国はまずなかった。(中略)いいアイデアはあるのに資金がなかったとしても、特許を取ることに問題はなかった」(前掲書)

 

さらに特許取得だけでなく、起業するための資金獲得もこの時のアメリカでは容易でした。アセモグルとロビンソンが示した数値によれば、1818年にアメリカ国内で営業していた銀行は338、総資産は1億6000万ドルだったのに対し、1914年には2万7864の銀行が営業し、総資産は273億ドルに達していたのです。資金調達をささえる金融業が急速に拡大し、貸し手の間の競争は借り手が負担する金利を低く抑えることにつながりました。

 

当時のアメリカは、投資をすればリターンが得られる資本主義の新世界だったのです。だからこそ電話機の発明はすぐに電話会社の設立につながり、白熱電球の完成は、直ちに発電所の建設と送電網の整備へとつながっていったのです。人が編み出したあらゆる技術、科学、道具は生活を豊かにする最新技術として一気に社会実装されていきました。

 

アメリカという国自体が、全員参加型の自由な経済の世界だったという点こそ大きなポイントです。そのためイギリスの産業革命で開発された設備機械や工場生産のノウハウ、経営システムが入ったとたん全員参加型で一気にイノベーションが起こり、そして世界の最上位の国家の一つになっていったのです。さらにこの全員参加型のエコノミーは、挑戦する人の母数も増やしました。母数が増えれば自動的に技術アイデアが増え、トライアンドエラーの数も増えていきます。

 

このように、アメリカには伝統的に自由な精神とチャレンジスピリット、それを支える力強い資本主義のシステムと投資家の存在がありました。それやがてシリコンバレーを生み、グーグルやアップル、アマゾン、マイクロソフト、メタなど、巨大IT関連企業を生み出す地となり、デジタルプラットフォームを形成する新たなビジネスモデルで、企業の時価総額ランキングで世界上位を占めていくことになるのです。誰でも成功者になれるアメリカンドリームとは、包括的な社会が存在しているということの裏返しの仕組みなのです。

次ページ資本主義は貧富の差を生み出すが…

※本連載は、太田裕朗氏、山本哲也氏による共著『イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

イノベーションの不確定性原理 不確定な世界を生き延びるための進化論

太田 裕朗
山本 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

イノベーションは一人の天才による発明ではない。 そもそもイノベーションとは何を指しているのか、いつどこで起き、どのようなプロセスをたどるのか。誕生の仕組みをひもといていく。 イノベーションを創出し、不確定な…

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