新卒マーケットはコロナ前には戻らない
■コロナ禍でサービス業は「就職氷河期」へ逆戻り
コロナ禍の長期化で新卒採用を見送ったり、採用人数を大幅に縮小したりする企業が増えている。特に感染拡大の直撃で苦境が続く観光業や運輸業などは、採用マインドが完全に凍てついた。
まず、旅行業界トップのJTBは社員の2割超に当たる約6500人の人員整理、国内店舗の4分の1に相当する115店舗を閉鎖するとともに、2022年度4月入社の新卒採用を見合わせると発表して、就活戦線に激震が走った。同業者であるエイチ・アイ・エスや近畿日本ツーリストも、2022年度入社の新卒採用の中止を発表している。
次に、就活生に人気の航空業界も、採用を大幅に絞り込んでいる。ANA(全日空)は毎年約3000人前後を新卒採用してきたが、2021年度4月入社は600人程度の採用に抑え、2022年度はさらに大幅に縮小して200人程度を予定している。
JAL(日本航空)に至っては、2022年度の新卒採用の見送りを決めた。その他、鉄道各社もJRと私鉄大手主要21社すべてが2021年3月期決算で最終赤字になり、新卒採用を縮小する方向で調整が進んでいる。
観光、運送、飲食などのサービス業以外にも、コロナ禍の直撃を受けた多くの企業が、2021年度の新卒採用を抑制したため、過去10年で上昇基調だった大学生の就職内定率は大幅に悪化した。コロナ禍の収束が見通せない2022年度も引き続き新卒採用の抑制が見込まれており、コロナ由来の「就職氷河期」到来を指摘する向きもある。
■業務のアウトソーシングが当たり前になりつつある
では、新型コロナが収束して企業の採用マインドが氷解すれば、新卒マーケットが以前のような売り手市場に戻るかといえば、これも難しいと思う。
理由の一つは、会社の業務を代替するアウトソーシング(外部委託)が非常に充実してきたことだ。アメリカのオーデスクや日本のクラウドワークスのようなクラウドソーシング企業を活用すれば、必要とする業務や職務に適った人材を世界中からマッチングすることができる。
アメリカ企業はシステム開発のほとんどを、インドをはじめベラルーシ、ウクライナ、フィリピンなどの安価で優秀なプログラマーに委託しているし、研究開発職さえ、ナインシグマなど技術者のプラットフォームを経由してアウトソーシングしている。日本でも、リモートワーク専任の人材派遣業を営むキャスター(中川祥太社長)などの会社を活用する企業が増えてきている。
地引き網のように新卒の一括採用をしてきたのは、日本特有の人事雇用制度だった。優秀な人材を囲い込んで、採用の手間とコストを低減できる。さらに言えば、「終身雇用」「年功序列」という日本型経営システムとの折り合いも良かった。
しかし、「終身雇用」や「年功序列」が崩壊し、人事制度が「能力主義」や「成果主義」に徐々にシフトしつつある中で、新卒一括採用の見直しが議論されるようになった。事実、2018年には経団連(日本経済団体連合会)から新卒一括採用・終身雇用に関する問題意識が表明された。
自社に社員を抱え込んで、人事異動を頻繁にやりながら、5年、10年かけて、自社にだけ精通した会社員を養成していくよりも、その分野のエキスパートを一定期間派遣してもらったほうが合理的であることに、多くの日本企業が気づきはじめたのだ。技術の発達によって外部に業務委託をしても何ら矛盾や支障が生じないほど仕事が平準化され、アウトソーシングを厭わない職場環境になっている。