日本人の給料を上げるためには、経営者がまず動かなければ何も始まりません。そして日本の産業界が変わり、学校教育の内容が変われば、日本の給料は上がり、「安いニッポン」から脱却するための解決の道は開けるといいます。大前研一氏が著書『日本の論点 2022~23 なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。』(プレジデント社)で解説します。

日本の教育には21世紀の人材像がない

■21世紀の人材像がない教育方針


 
21世紀型の社会で活躍できる人材を育てるには、学校教育から根本的に変えていく必要がある。就職してからでは遅いのだ。しかし、日本の教育には21世紀の人材像がなく、海外では国家レベルで取り組んでいる問題に目を向けていない。

 

学校教育を担当する文部科学省が、そもそも21世紀に必要とされる人材像を描いていない。メーカーの仕事で言えば、まず商品企画があって、開発や設計へ進むはずなのに、最終的な商品(必要とされる能力)が決まっていない状態だ。


 
21世紀の人材像がないので、相変わらず明治以来の工業化社会に適した人材、欧米に追いつけ追い越せをするための教育になっている。すべての答えは欧米にあり、その答えを頭に入れて正確に速くできれば優秀だと認められる。答えそのものは自分で考え出さなくていい。20世紀の日本は、このような教育方針で非常にうまくいった成功体験があるので、21世紀になっても変えようとしないのだ。

 

文科省の役人や中教審(中央教育審議会)の会長に、21世紀型の人材像を尋ねても、まともな答えは返ってこない。そのイメージがないまま、教育プログラムをつくっているのだから怖い。現場の教師に不満を聞いて、中教審が改善するということを繰り返している。

 

さらに各分野の学者たちが、教育方針に口を出す。現場の意見に学者先生の意見を加えたものが、中教審が出す方針だ。現場の先生は、改善されてやりやすくなるだろうが、生徒たちはますます21世紀にフィットしなくなる。

 

現場の教師たちは実社会のビジネスを知らないので、21世紀型の人材像を描けるはずがない。明治以来ほとんど内容が変わらない学習指導要領に沿って教えているだけだ。学習指導要領はおよそ10年に一度改訂されるが、新しい指導要領を見ると、20世紀の教育を極めた完成形で、21世紀への対応はほとんど入っていない。企業の現場で進んでいる仕事が、昔とは大きく異なることもわかっていない。

 

ドイツでは小学5年生で大学進学コースとスペシャリストコースに分かれ、中学、高校では各分野の専門教育を受ける。工業系に進んだ生徒たちは、会社に勤務するマイスターに弟子入りする。マイスターは指導者の資格を持ち、大学卒と対等の地位だと定められているのが特徴だ。

 

生徒はインターンとなり、最先端の製造技術や製造機械に触れ、現場の親方から仕事を教わる。週に2日が実習、3日が座学という具合に、実習と座学の組み合わせで現場の実学を身につけていくのだ。

 

生徒の7割ほどは、そのまま実習した会社に就職する。現場を経験して就職するので、日本のように入社3カ月で4割が辞めるといったミスマッチは起こらないため、時間をかけて仕事の基礎から教育する必要もない。このように、マイスター制は21世紀型に変化し、企業の生産性にも貢献しているのだ。

 

ドイツは「インダストリー4.0」の国家ビジョンに基づいて、ミドル世代はリカレント教育、リスキリングで再生し、若者はマイスター制で早期に育成されている。国全体で歯を食いしばって21世紀型へシフトしているのだ。

 

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本連載は、大前研一氏の著書『日本の論点 2022~23 なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。』(プレジデント社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

日本の論点 2022~23

日本の論点 2022~23

大前 研一

プレジデント社

「なぜ日本では真面目に働いても給料が上昇しないのか」――。 約2年間にわたり猛威を振るい、各国の政治経済に深刻な影響を与えた新型コロナウイルスは、ワクチン接種が進んだ結果、いまだ予断を許さないとはいえ、世界は新…

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