入居者退去の際、必ず行われる「原状回復」。この際かかる費用について、オーナーと入居者(契約者)のあいだでトラブルになってしまうことも少なくありません。本記事では、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が、退去時に発生しやすいトラブルを回避するためのポイントと、問題が起こった際の対処法について解説します。
トラブル発生…オーナーができる「現実的な対処」
この原状回復問題については、どんなに理屈で整理しても解決しきれない点があります。
それは、オーナーは「通常損耗か否か」がトラブルになった場合、その賃借人とのやり取りや判断を行うために通常よりも手間・労力・コストが発生し、賃貸経営がスムーズにいかなくなってしまうことです。
結果だけをみて前述のような観点から判断するのは簡単ですが、実際トラブルになった場合、相手が納得しないと裁判で決着をつけなければなりません。
経営が滞らないよう、大家側の現実的な対応として下記の2点が挙げられます。
①入居者側の過失による損耗があった場合、「敷金から原状回復費用を支出するため敷金を返金できない」旨を主張する
②そのうえで、多少の返金で相手が納得するのであれば、返金してでも「原状回復費および敷金返還についての合意書」を交わし、トラブルを収束させる
これが、もっともコストパフォーマンスのいいやり方でしょう。
仮に、敷金以上に原状回復費が発生していたとしても、多少の金額は損切りしたほうが得です。裁判をやるための労力と弁護士費用を考えると、数万円程度で解決するのであれば「賃貸事業の必要経費」と考えたほうが、経営者としてはいい判断といえます。
「特約」による対策も有効…ただし注意点も
契約時に特約を定めておき、入居者側が負担すべき退去費用をあらかじめ決めておくことも、ある程度は有効でしょう。
ただ、「損耗具合にかかわらず敷金を半額差し引く」「通常損耗についても入居者負担にする」といった特約は、消費者契約法10条により無効と判断される裁判例が多数存在します。
そのため、契約により事前に対策していたからといって、入居者との退去時トラブルを完璧に防御することは難しいです。
したがって、入居者とうまくコミュニケーションが取れ、トラブルの際に公平にジャッジしてくれるような管理会社に依頼しておき、退去費用とのバランスを取るというほうが現実的です。
そのうえで、先述のように多少の損失については賃貸事業の必要経費だと割り切り、次の入居者を決めることに注力しましょう。
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弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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