(写真はイメージです/PIXTA)

健康診断でもおなじみのX線やCTなどを用いた放射線治療は、私たちにとって身近な存在です。本記事では、そんな放射線治療の仕組みと人体に与える影響について、京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏と関西大手予備校「研伸館」講師の米田誠氏が、物理学の観点からわかりやすく解説します。

レントゲンとはX線の使い方が異なる「CTスキャン」

レントゲン写真と並んでよく耳にするCTは、(Computed Tomography:断層影像法)の頭文字をとったもので、コンピューター断層撮影とも呼ばれる技術です。CTはレントゲン写真と同じく、X線の透過度合いを画像化する技術なのですが、レントゲン写真とはX線の使い方が大きく異なります。

 

レントゲン写真では[図表3]に示すようにX線を撮影対象に対して〝面〞で照射して、その透過度合いを記録します。

 

[図表3]単純X線検査でのX線の照射

 

それに対してCTでは、面ではなくビーム状(直線状)のX線を用います。撮影対象に向かってビーム状のX線を、360度の様々な角度から何回も照射して、体を透過したX線を検出器でキャッチし、それぞれのX線の強さをデータとして記録します。そして、このデータをコンピューターで再構成処理することで断面の画像をつくり出すのです。

 

Tomographyと呼ばれるこの再構成処理技術こそが、CTの肝です。

 

コンピューターが不可欠…CTのしくみ

[図表4]空間のピクセル分割

 

まず、[図表4]のように、撮影したい空間を格子状に分割して認識します。といっても実際に切り分けるのではなく、住所の番地のように、それぞれの場所を異なった要素として認識するのです。分割されたそれぞれの区域を画素(ピクセル)といいます。

 

通常は、一つの断面の縦横それぞれを512分割、つまり512×512=26万2144個の画素に分割する場合が多いようです。

 

画素数、つまり分割する数を増やすほど、より詳細な画像データが得られるのですがコンピューターの負担は増していきます。今後はコンピューターの処理能力向上に伴って、もっと解像度は上がっていくでしょう。

 

ここでコンピューターが行なっている処理を、[図表5]に示す4マスのモデルを使って説明してみます。まず、未知の数字が入っているそれぞれのマスをA、B、C、Dとします。

 

次に、数字の和がわかっているとします。たとえばA+B=10、A+C=8、A+D=8だとしましょう。でもこれだけでは未知の数字は決まりません。そこでさらにC+D=14とします。すると4つの未知数の組み合わせ、A=1、B=9、C=7、D=7が決まります。

 

[図表5]画像再構成処理単純モデル

 

このように、[図表5]のようなマス中の4つの未知数を求めるためには、4つの連立方程式を立てて、それを解く必要があります。未知数の個数と同じ数の連立方程式をつくり、解かなければいけないのです。

 

では、縦横それぞれを512分割するとどうでしょう。512×512=約26万マスありますから、それぞれに異なる数値が未知数としてあるとき、26万もの連立方程式を解く必要があります。人の頭ではとても不可能でしょう。だから、CTにはコンピューターによる計算が必要なのです。

CT画像は「写真」ではない

では、この「マスの数字の組み合わせを求める作業」が、どのように人体の断面画像につながるのでしょうか。

 

CT画像を撮影するときには、[図表6]のように、照射装置によって様々な向きから何度もビーム状のX線が照射されます。また、X線の検出器も設置しますから、X線は、「照射装置→皮膚→脂肪→筋肉→胃→膵臓→内臓脂肪→骨→筋肉→脂肪→皮膚→検出器」などといった道のりを経て検出器に達します。

 

[図表6]X線照射と検出の様子

 

X線の透過度合い(吸収されやすさ)は部位によって異なりますから、照射されたX線は、様々な強さで検出されます。

 

この強さをコンピューターの解析にかけ、数万通りの連立方程式を解かせることで、それぞれのマスにある人体の部位がどれだけX線を吸収したのか算出するのです。

 

そして1マスごとのX線の透過度合いに合わせてマスに色をつけていけば、下にあるような画像を得られます。

 

X線を利用して認識した情報をコンピューター処理することで、物体の内部構造を画像として構成している
[図表7]CT画像X線を利用して認識した情報をコンピューター処理することで、物体の内部構造を画像として構成している

 

つまりCT画像とは、コンピューターによって画像として再構成されたX線の透過度合いのデータです。直接的に写真を撮影しているわけではないのです。

 

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本連載は鎌田浩毅氏米田誠氏の共著『一生モノの物理学』(祥伝社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏と、関西の大手予備校「研伸館」の専任講師の米田誠氏という、二人の「理系を教えるプロフェッショナル」がビジネスパーソン向けに執筆した本書は、医療や日常の中にあるテクノロジーを題材にしな…

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