パソコンやスマートフォンなど電子機器を見つめる時間が増えた現代の私たちにとって、「視力低下」はたいへん身近な問題です。視力が低下するとき、私たちの目にどんな変化が起こっているでしょうか。京都大学の名誉教授である鎌田浩毅氏と、関西の大手予備校「研伸館」講師の米田誠氏が、物理学の観点からわかりやすく解説します。
近視と遠視は「眼球の変形」が原因
身近な目の症状である近視と遠視は、光の屈折と関係があります。
私たちがものを「見る」ためには、網膜上の一点に光が集まらなければいけません。これを「像を結ぶ」といいます。
像を結ぶため、近くを見るときには、筋肉(毛様体筋)によって水晶体を厚くすることで光が屈折する角度を大きくします。逆に遠くを見るときには水晶体を薄くして光が屈折する角度を小さくします。
ところが、眼球そのものが変形し、網膜上に像を結べなくなる症状がしばしば見られます。これが遠視や近視です。
眼球が変形してしまうと、正常な眼球(正視眼)に比べて、遠視の場合は水晶体と網膜の距離が短く、近視の場合は水晶体と網膜の距離が長くなります。すると、[図表1]のように像を結ぶ場所が網膜上からずれてしまい、見えにくくなるのです。遠視の場合は水晶体から遠いところ、近視の場合は水晶体に近いところで像を結んでしまいます。
老眼は水晶体や毛様体筋の劣化が原因ですが、遠視や近視の原因の多くは眼球の変形です。同じ視力の低下でも、仕組みが異なることがご理解いただけたでしょうか。
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老眼・白内障を劇的改善…最新の「人工レンズ治療」
さて、水晶体に原因がある老眼や白内障に対しては、水晶体を人工のレンズに交換する「単焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」と呼ばれる治療が従来行なわれてきました。
劣化した水晶体を眼内から取り除き、代わりに人工レンズを埋め込むことで老眼と白内障を劇的に改善することができます。健康保険が適用できますから、3割負担なら片目あたり40,000円前後で治療できます。
しかし、単焦点眼内レンズには1つ問題があります。それは文字通り単焦点である点、つまり光が集まる場所が1つしかないことです。水晶体のように厚さを変えて焦点を調整することができないため、ピントが合う距離が1つしかないのです。遠くだけ、もしくは近くだけしか見られません。
京都大学
名誉教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省主任研究官、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て、現在京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・同名誉教授。専門は火山学、地球科学、科学教育。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。
著書は『100年無敵の勉強法』(ちくまQブックス)、『理系的アタマの使い方』(PHP 文庫)、『新版 一生モノの勉強法』(ちくま文庫)、『火山噴火』(岩波新書)、『地球の歴史』(中公新書)、『一生モノの英語勉強法』(吉田明宏氏との共著、祥伝社新書)などのほか、研伸館との共著に『一生モノの受験活用術』(祥伝社新書)がある。
YouTube「京都大学オープンコースウェア」で『京都大学最終講義』動画を公開中。
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連載「物理」で日常のみえかたが変わる…身近な医療技術を物理学の視点から徹底解説!
研伸館
専任講師
1977年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学大学院修了(修士[工学])。三菱重工業株式会社での設計業務を経て、現在関西の大学受験予備校「研伸館」にて物理の学習指導に携わる。東大・京大をはじめ、難関大学志望の高校生や灘中・灘高の学校準拠クラスを指導するなど、幅広いレベル・学年の講座を担当。イメージに頼らず、基礎から体系的に知識・論理的思考力を構築していく指導をモットーとする。
YouTube「研伸館オンライン」チャンネルにて、『物理のワンポイント講義』動画を現在公開中。鎌田浩毅・研伸館共著の『一生モノの受験活用術』(祥伝社新書)にて物理の記事を執筆。
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