(写真はイメージです/PIXTA)

白内障手術で使われる「多焦点眼内レンズ」。遠近両方にピントが合い、メガネやコンタクトから解放されるとたいへん便利な一方で、従来の単焦点レンズに比べ「高額すぎる」と敬遠されてしまうことも……今回は、そんな「多焦点眼内レンズ」の詳しい仕組みとその課題について、京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏と、関西大手予備校「研伸館」講師の米田誠氏が、物理学の観点からわかりやすく解説します。

回折レンズが「近くも遠くも見られる」ワケ

ところで、実はここまでお見せしてきた図は不完全です。わかりやすくするために、複数ある回折角のうち1つだけしか描いていないからです。

 

[図表4]では隣り合うスリットからの回折波がちょうど波1個分だけずれて揃う向きで強め合う様子を表現しましたが、もちろん、強め合う波同士のずれは波1個分だけには限りません。波2個分のずれでも3個分のずれでも、山と山、谷と谷が揃いさえすれば波同士は強め合うからです。

 

つまり、回折レンズは強め合った光を複数の角度でつくり出せるのです。

 

[図表6]回折角
[図表6]回折角

 

[図表6]に示すように、隣り合うスリットからの回折波がちょうど波1個分だけずれる向きを1次回折角、2個分だけずれる向きを2次回折角と呼び、それぞれの回折角に強い光が観測されます。

 

したがって、スリットが全体に分布している回折レンズでは、たとえば1次回折光をレンズの遠くに集め、2次回折光をレンズの近くに集めることができます。

 

ですから、[図表7]のように、回折レンズは近くも遠くも見ることができるのです。

 

[図表7]回折型の多焦点眼内レンズの形状および集光
[図表7]回折型の多焦点眼内レンズの形状および集光

 

[前掲図表1]で示した屈折型の多焦点眼内レンズのように、中央部と周縁部での役割分担はありませんから、瞳孔が開きにくくなる年齢でも気にせずに使えます。

高額な治療費…「多焦点眼内レンズ」が抱える課題

治療費についてもご紹介しておきましょう。

 

ここまで解説した「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」はたしかに優れてはいるのですが、2020年3月末までは「厚生労働省の先進医療」として健康保険が適用されず、医療機関にもよりますが、片目で400,000円前後と高額でした。

 

ところが、2020年4月からは「厚生労働省の定める選定療養」の対象となり、まだ高額なものの150,000~250,000円で治療が受けられるようになりました。

 

また、多焦点レンズは、健康な眼球でも生じてしまう「グレア」(暗いところで光をまぶしく感じる現象)や「ハロー」(光がにじんで見える現象)が、単焦点レンズよりも少し強いことが報告されています。

 

一方、従来の標準的な治療法である単焦点眼内レンズを用いた場合は健康保険が適用できますので、片目で約40,000円(3割負担の場合)の治療費です。

 

つまり、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べて片目だけで100,000円以上も高額です。すなわち、単焦点レンズにもメリットはあるということです。

 

単焦点レンズと多焦点レンズの比較を[図表8]に示します。

 

[図表1]単焦点レンズと多焦点レンズの比較
[図表8]単焦点レンズと多焦点レンズの比較

 

[図表8]を見ていただければおわかりのように、どのレンズを用いてもやはりもともとの水晶体よりは不便が増えてしまいます。

 

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    本連載は鎌田浩毅氏米田誠氏の共著『一生モノの物理学』(祥伝社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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