(写真はイメージです/PIXTA)

白内障手術で使われる「多焦点眼内レンズ」。遠近両方にピントが合い、メガネやコンタクトから解放されるとたいへん便利な一方で、従来の単焦点レンズに比べ「高額すぎる」と敬遠されてしまうことも……今回は、そんな「多焦点眼内レンズ」の詳しい仕組みとその課題について、京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏と、関西大手予備校「研伸館」講師の米田誠氏が、物理学の観点からわかりやすく解説します。

年齢を気にせず使える「回折型多焦点眼内レンズ」

光の「回折」とは

一方で、瞳孔の大きさに左右されないのが回折型のレンズです。「回折」とは光や音などの「波」が進むときに遮蔽物の背後に回り込む性質のことをいいます。

 

とはいえ、「光は波である」「光が物の背後に回り込む」といわれてもピンとこない方が多いでしょう。そこで、1つ例を挙げましょう。

 

暗い廊下に、少しだけドアを開けた部屋から明かりが漏れているとします。このとき、漏れる光がほんの少しだけ広がって見えることに気づいていましたか?

 

そう、これこそが光の回折なのです。

 

[図表2]スリット(切れ込み)による波の回折
[図表2]スリット(切れ込み)による波の回折

 

光を通さない物体にスリット(切れ込み)を入れ、そこに向けて光を入射すると、スリットを通過した光は[図表2]のように広がります。この広がる光を回折光といいます。光は広がって伝わるのです。

 

「回折型レンズ」の仕組み

さて、では複数のスリットに光を入射させるとどうなるでしょうか? 光はそれぞれのスリットで回折しますから、スリットの向こうにはいくつもの回折光が広がっていきます。すると、今度はこの多数の回折光同士が重なり合い、強め合ったり弱め合ったりするのです。

 

この、複数の波が重なって強め合ったり弱め合ったりする現象を「波の干渉」といいます。

 

波が干渉するとき、[図表3]に示すように、波の山と山、もしくは谷と谷が重なると、互いに強め合って強い波として観測されます。それに対して、山と谷が重なり合うと、互いに打ち消し合って波は観測されなくなります。

 

多数のスリットによって生じる回折光でも、このような干渉が起こります。

 

[図表3]2つの波の干渉(強め合いと弱め合い)の様子
[図表3]2つの波の干渉(強め合いと弱め合い)の様子

 

では次に、多数のスリットを入れた物体に向けて光を入射させてみましょう。すると、[図表4]のように隣り合うスリットを通過して回折した波が揃って並ぶ向きでは山同士・谷同士が揃いますから、強め合った波が観測されます。

 

この強め合った波が観測される向きと、もとの波が進んできた向きとがなす角度(図中θ)を回折角といいます。回折角はスリット同士の間隔(図中d)によって決まります。[図表4]のようにスリットの間隔が広いときの回折角は、間隔が狭いときの回折角よりも小さくなります。

 

[図表4]回折波の干渉
[図表4]回折波の干渉

 

この性質を利用すると、強め合った光を一点に集めることができます。つまり、[図表5]のように中央部のスリット間隔を広く取り、周縁に近づくにつれてスリットの間隔を次第に狭くしていくことで、スリットを回折した光を集めて強め合わせることができるのです。これが回折レンズの仕組みです。

 

[図表5]回折レンズ
[図表5]回折レンズ

 

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本連載は鎌田浩毅氏米田誠氏の共著『一生モノの物理学』(祥伝社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏と、関西の大手予備校「研伸館」の専任講師の米田誠氏という、二人の「理系を教えるプロフェッショナル」がビジネスパーソン向けに執筆した本書は、医療や日常の中にあるテクノロジーを題材にしな…

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