バブル崩壊後、しばらくは活気の残っていた建設業界もいよいよ状況が厳しくなり、中小企業はダンピングに次ぐダンピングにあえぎ続け、体力のないところからバタバタと倒れていきました。山陰地方のある建設会社の責任者は打開策として、景気に左右される大口工事への偏重から、一定の需要が見込める小口工事へのシフトを提案しましたが…。

「大型工事受注重視」の社内風土が壁に

小口工事の受注に力を入れるにあたり、大きな壁となったのが、社内風土でした。

 

島根電工は数々の華々しい大型工事を受注し、県下トップとなった会社です。したがって、社内には「大型の工事の契約を取ってくる人が偉い」という風土がありました。

 

営業部では、1億円、2億円という案件を受注した営業パーソンがヒーローでした。仮にそれの利益が少ないものであっても、とにかく「大型工事こそ営業の花形」として、彼らは必死に大型案件の受注を目指していました。

 

私が小口工事を動かし始めたときにも、その風土は変わりませんでした。

 

「所長、1億の案件が決まりました!」

 

「おお! やったな! おめでとう、みんな拍手だ!」

 

そんな雰囲気のなかで、2万円の小口工事を取ってきた営業パーソンは、恥ずかしくてとても自分の功績を伝えることなどできません。彼らとしては、どうしても大型の工事の受注に力を注ぎたくなります。

 

公共工事の入札やゼネコンへの御用聞きといった、大型の工事に関わるルート営業を担うのは実績のある中堅営業パーソンたちばかりで、実績のない若手社員は必然的に小口工事の営業ばかり任されていました。結果として、若手営業パーソンが一生懸命仕事をして受注を重ねても、社内的には一向に評価が上がらず、そこに不満を抱える社員が出てきました。

 

しかし、大型工事は、その受注につながるルート営業のラインにさえ乗っていれば、極論タイミング次第で誰でも取れるものです。一方の小口工事は、一般家庭やエンドユーザーというこれまでにないお客さまを対象とした新規開拓営業であり、新たな市場を切り拓くという点においては、既存ルートからの大型工事の受注よりもはるかに価値があるものです。

 

社内風土を変えるには、社員たちの価値観の大転換が必要でした。

 

 

荒木 恭司
島根電工株式会社 代表取締役社長

 

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荒木 恭司

幻冬舎メディアコンサルティング

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