重症心不全に対する最終手段、「心臓移植」
■心不全の「5年生存率」は50%以下だが、心臓移植を受けると…
しかし、あらゆる治療を行っても重症の心機能不全に陥る場合には、心臓移植を検討しなければなりません。心臓移植とは、亡くなった人から心臓の提供を受け、その心臓を体内に植え込んで延命とQOL(生活の質)の改善を計ることを目指す治療です。日本移植学会によると、心臓移植をした人の5年生存率は93.0%、10年生存率は89.4%とされています(「2020年臓器移植ファクトブック」より)。
■ただし、国内で移植を受けられるのは「希望者の10分の1」未満
日本で心臓移植を受けるにはまず、日本臓器移植ネットワーク(JOT)に移植希望者として登録する必要があります。その後、脳死に至った人(ドナー)から臓器提供を受けられることが分かれば、手術になります。心臓移植を受けるまでの待機期間中は、補助人工心臓(VAD)で心臓をサポートする「つなぎの治療」が行われます。
日本では1997年に臓器移植法が施行され、臓器移植が本格的に始まりました。しかし当時はまだ、臓器の提供には本人の書面での意思表示が必要でした。その後2010年の改正により、本人が生前に拒否をしていなければ、家族の承諾さえあれば提供が可能になったのです。
これにより臓器移植の数は大きく伸び、2019年には84件、2020年には54件の心臓移植が行われました【図表】。
しかし、心臓移植を希望している人の数と比較すれば、移植の件数はわずかです。2021年9月の時点で、心臓移植を希望してネットワークに登録している人は926人です。つまり、国内で実際に心臓移植を受けられる人は、この10分の1にも満たないのが現状です。
■現状、国内で移植手術できる人は2.8%のみ…高まる「人工心臓」への期待
欧米では非常に盛んに行われている移植手術ですが、日本ではなかなか進んでいません。移植件数が伸びないのは心臓に限ったことではなく、日本臓器移植ネットワークによれば、日本で臓器の移植を希望して待機している人のうち臓器提供を受けられる人は、わずか2.8%だそうです。
なぜこれだけ多くの人が移植手術を希望しながら心臓の提供を受けられないのかといえば、圧倒的にドナーが不足していることや、臓器提供に対応できる体制を整えた病院が少ないことなどが理由として挙げられます。そのため、本来は心臓移植の手術を待っている間の「つなぎの治療」として使われていた補助人工心臓を終生使用する「ディスティネーションセラピー」も、治療の選択肢として考慮されています。実際に1990年代末頃から、永久使用を目的とした左心補助心臓の臨床応用が始まっています。
補助人工心臓の使用は、簡単にいえば、心臓のポンプ機能を機械に代行してもらう治療法です。補助人工心臓には、血液ポンプを体外に設置する「体外設置型」と、身体の中に植え込む「植込み型」の2種類がありますが、いずれも血液の循環を機械に代行してもらうことで、弱った心臓を休ませる効果があります。
1960年代に人工心臓の臨床応用が開始されて以来、約60年の年月を経て、人工心臓は大きく進化を遂げています。次世代の血液ポンプが開発されたり、小型化が進んだり、世界各国で研究が進んでいます。今後もさらに進化が進み、世界中で重症心不全患者の命を救うことが期待されています。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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