恐ろしい…認知症の人に「何やってるの!」「さっき食べたでしょ!」と言ってはいけないワケ【専門医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

認知症ケアにおいて、「その人の立場に立った対応」が症状の軽減に有効という考え方があることをご存じでしょうか。認知症中期から始まる徘徊や妄想、暴力や暴言などの「BPSD(周辺症状)」は、介護者にとって大きな負担となりがちです。患者の症状が改善すれば、家族の負担も軽減されるはず。そこで今回は、医療関係者やリハビリ療法士、臨床心理士といった専門職の間に広まりつつある「パーソンセンタードケア」について見ていきましょう。認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

認知症が悪化するか、改善するかは「関わり方」次第

アルツハイマー型認知症では、発症から数年経過し中期になると、徘徊や夜間せん妄、妄想や幻覚、暴言や暴力といった症状が出てきます【図表】。

 

【図表】アルツハイマー病の症状

 

暴言や暴行は介護者に向けられ、また徘徊で外に出るようになると、それまで家の中だけだった行動障害が屋外まで広がるため、介護者にとってはケアを要する場が広くなります。さらに、夜間せん妄が出ると行動障害は昼夜に及ぶため、ケアを要する時間も長くなります。

 

そのため、初期のうちは医療機関を受診しなくても、中期になると介護者が困って、初めて受診するということも少なくありません。また、ケアも初期のうちは主として自宅だったのが、介護の負担感が増えるために病院やグループホーム、老人保健施設などへ入院、入所させるといったケースが増えてきます。

 

おのずと、認知症の患者と関わる人が増えていきやすい中期において、私が最も問題と考えるのは、その人たちと「どう関わるか」です。というのも、この時期は特に関わり方次第で症状が強くなったり、改善したりしやすいからです。

 

中期だけに限ったことではないのですが、「その人の立場に立った対応」が、症状の軽減に有効との考え方があります。その考えに基づいたケアを「パーソンセンタードケア」といいます。

患者目線でケアをする「パーソンセンタードケア」

■「尊厳を傷つける対応」は症状の悪化を招く

パーソンセンタードケアとは、1997年に英国の心理学者トム・キットウッドが提唱した概念で、「認知症患者の言動を、患者の立場で考えようとする対応」と訳されています。

 

認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考え、ケアを行おうとする認知症ケアの一つの考え方です。

 

当時の英国では、認知症の人=「何も分からなくなり理解不能な行動をする人」という考え方が主流で、施設で行われているケアといえば、おむつ交換や入浴介助をただ時間どおりにこなすといったような流れ作業的な内容に過ぎませんでした。

 

それがどんなに認知症の人の尊厳を傷つけているかをキットウッドは長期間にわたる観察研究から見いだし、さらに尊厳を傷つけることが結果的に認知症の症状を悪化させてしまうことも指摘しました。

 

例えば、忘れてしまったときに「こんなことも覚えていないの?」とか、できないことに対して「どうしてできないの?」などと見下す態度をとったり、暴れたり騒いだりする人を無視したり隔離したりといったことが日常的に行われていると、認知症の患者には怒りが蓄積し、余計にBPSDがひどくなってしまいます。さらに、それを通り越すと無力感におそわれ、生きる意欲もなくしてしまうのです。

 

そういったことをキットウッドは、認知症の症状改善を妨げる大きな問題として、警鐘を鳴らしました。

 

人をもののようにみなしたり、効率重視でルーチンをこなしたりするような認知症ケアでは症状は決して良くなりませんし、それでは結果的にケアしている人までも疲弊させてしまい誰も救われません。そうではなくて、認知症の患者の「個性」や「人生の歩み」に焦点を当てたケアにシフトすべきであるというのがキットウッドの主張です。この考え方は英国内だけでなく世界に大きな影響を与えました。

 

■症状が進んでも、個人として尊重されたい気持ちは変わらない

認知症の人は、記憶障害が進みうまく自分の意思を伝えられなくなっても、潜在的には「自分らしくありたい」「人と結びつき、ともにありたい」「好きなこと、興味のあることに携わりたい」「心安らかに、くつろいでいたい」というニーズを持っています。

 

健常な人であれば、これらは自らの努力で手に入れることも可能ですが、認知症の人では困難なケースが多くなります。そこで、ケアスタッフや家族などの周囲の人が積極的に関わり合い、サポートすることが必要になってくるのです。

 

たとえ考えることや話すことがままならなくなったとしても、その人の今までの人生や個性を重んじて、本人の気持ちを受け止め配慮することによって支えていくことが、パーソンセンタードケアの第一歩といえます。認知症の人にも「自分の人生を自分で生きたい」「個人として他者に受け入れられたい」という誰もが持っている基本的な欲求があるということを、周囲の人がまず認識することが大事なのです。

 

パーソンセンタードケアの考え方は、近年、我が国でも少しずつ、主に認知症の人のケアに携わる医療関係者やリハビリ療法士、臨床心理士といった専門職の間に広まっているものの、まだ一般的にはあまり知られていません。認知症人口の増加が確実視されている現代社会において、医療機関にももっと浸透してほしいと思っていますし、家庭でもこの考え方に基づいたケアが実践できれば、本人にとっても家族にとっても、心理的負担の軽減などのさまざまなメリットが期待できるというのが私の考えです。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

 

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旭神経内科リハビリテーション病院 院長 日本神経学会認定神経内科専門医
日本老年精神医学会専門医
日本認知症学会専門医
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医

千葉大学医学部を卒業後、銚子市立病院精神科、松戸市立病院神経内科を経て、旭神経内科医院を設立、院長に就任。

介護老人保護施設栗ヶ沢デイホーム施設長、千葉県東葛北部地域リハビリテーション広域支援センター長を兼任。

2002年には、回復期リハビリテーション病棟を開設。2004年に旭神経内科リハビリテーション病院に改称。認知症、寝たきりになっても、住み慣れた地域で長く暮らせる街づくりに取り組んでいる。

日本認知症ケア学会平成26年度奨励賞、2016年第25回若月賞受賞。

著者紹介

連載専門医が徹底解説!「隠れ認知症」の早期発見・早期ケア

※本連載は、旭俊臣氏の著書『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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