今回は、任意後見契約の3つの利用形態を見ていきます。※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、成年後見制度等にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

法定後見と任意後見の2種類がある「成年後見制度」

成年後見制度には、裁判所の手続により後見人、保佐人又は補助人を選任してもらう法定後見制度と、当事者間の契約によって後見人を選ぶ任意後見制度があります。

 

このうち法定後見は、判断能力が既に失われたか又は不十分な状態になり、自分で後見人等を選ぶことが困難になった場合に利用されるものであるのに対して、任意後見の方は、まだ判断能力が正常である人、又は衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が信頼できる人との間で将来の財産管理等を任せるため利用する制度です。

 

これらの成年後見制度の基本理念には、①ノーマライゼーション、②自己決定の尊重、③残存(現有)能力の活用という考え方があります。

 

①のノーマライゼーションとは、障害がある人でも自立したごく通常の生活を営める社会を作るということ、②の自己決定の尊重とは、できる限り本人の意思を尊重しながら支援するということ、③の残存能力の活用とは、本人に少しでも能力を見出せるならそれを可能な限り引き出して活用するということです。これらの理念に最も即しているのが任意後見契約と考えられます。

任意後見契約は公正証書によって初めて締結できる

なお、任意後見契約には①将来型、②移行型、③即効型といった3つの利用形態があります。

 

①の将来型の契約は、契約を締結する現時点では自分の判断能力には問題がないものの、将来判断能力が低下したときのことを想定して、判断能力が低下した時点ではじめて任意後見人による保護を受けようとするもので、本来の任意後見契約の形です。

 

②の移行型の契約は、現時点では自分の判断能力には問題がないものの、身体的な機能の衰えや病気や障害等を抱えているので日常の財産管理時事務等に支障があるため、契約締結時から受任者に財産管理等の事務を委託し、将来的に自己の判断能力が低下した後は、公的監督の下で引き続き受任者に後見人として幅広く事務処理を行ってもらうものです。

 

③の即効型の契約は、既に判断能力の衰えがみられ、軽度の認知症(痴呆)・知的障害・精神障害等の状況にあって、補助や保佐の対象となりうる方にお勧めのものです。このような方であっても、契約締結時に意思(判断)能力があれば、自ら選んだ者との間で任意後見契約を締結することができるとされています。そして、この場合は、契約後直ちに任意後見監督人の選任をしてもらって、すみやかに任意後見人の保護を受けることができるのです。

 

本連載は、もっぱらまだまだなじみがなく知らないために活用が少なく、多くの人が損をしていると思われる任意後見制度のことを皆さんに少しでも知ってもらうことを願って書きました。そのため、制度の詳しい内容にまで踏み込むことまではしていません。

 

ただ、任意後見契約は、法律によって公正証書によって初めて締結することができるものです。それは、この制度を利用しようとする本人の意思をしっかりと確認しなければいけないし、また、契約の内容が法律に従ったきちんとしたものになるようにしなければならないので、長年法律的な仕事に従事し、深い知識と経験を持つ公証人が作成する公正証書によらなければならないと定められているのです。

 

そこで少しでも関心がある方、またもっと詳しいことを知りたい方は、迷わず公証役場にお出かけになり、公証人とご相談ください。

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

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