(※写真はイメージです/PIXTA)

欧米で株式や債券と同じように投資対象として人気を高めている「ワイン」。今回は、畑ごとに格付けされているフランス・ブルゴーニュ地方において、フランスを代表するワイン雑誌が歴史的評価の低かった「クロ・パラントゥ」を高く評価した理由に迫っていきます。

神様と称されるワイン醸造家…アンリ・ジャイエ

クロ・パラントゥが現在のような名声を得るのは、アンリ・ジャイエが関与するようになった1950年代より後のことです。19世紀末のフィロキセラ禍以降、クロ・パラントゥの大部分ではブドウ栽培が行われず、畑は捨て置かれて藪になっていました。また、第二次世界大戦中は食料自給のために、一部でキクイモが栽培されていました。

 

クロ・パラントゥでのワイン生産再開に際し、アンリ・ジャイエは大変な苦労をしたようで、ブドウを植樹するため、400発を超えるダイナマイトで巨大な石灰岩を砕かなければなりませんでしたし、キクイモの根は地中深くに伸びていたため、取り除くのが大変でした。アンリ・ジャイエがクロ・パラントゥの最初の区画をロブロ家から取得したのは1951年でしたが、こうした整地に苦労し、ピノ・ノワールの植樹を始めることができたのは1953年になってからでした。

 

1976年ヴィンテージ以前、アンリ・ジャイエは醸造したワインのほとんどをネゴシアンに売却していました。ベルギーのカーヴ・デズィリー社とアレキシス・リシーヌ社の取り扱いが知られており、この二社は「アンリ・ジャイエ」の名前を生産者としてラベル上に表示していました。

 

「クロ・パラントゥ」の名前が初めてラベル上に現れたのは、アンリ・ジャイエがドメーヌ元詰めを始めた1978年ヴィンテージであると考えられています。これ以前のヴィンテージでは、クロ・パラントゥの畑からのワインはヴォーヌ・ロマネの村名として売られていました。

 

1.01 haのクロ・パラントゥは現在、0.7177 haをエマニュエル・ルジェが代表するジャイエ家が所有し、残りの0.2950 haをドメーヌ・メオ=カミュゼのカミュゼ家が所有しています。

 

アンリ・ジャイエは1950年代から1988年までドメーヌ・メオ=カミュゼの折半耕作人であったため、メオ=カミュゼが自社ラベルでの瓶詰めを始める1984年ヴィンテージまで、クロ・パラントゥは事実上、アンリ・ジャイエのモノポール(単独所有畑)でした。ドメーヌ・メオ=カミュゼの持ち分のクロ・パラントゥに関して、アンリ・ジャイエとの折半耕作契約は1988年ヴィンテージで終了しています。

 

折半耕作の期間中、メオ=カミュゼの持ち分から醸造されたクロ・パラントゥの赤ワインは、その半分が地代としてドメーヌ・メオ=カミュゼに支払われ、残りの半分はアンリ・ジャイエのセラーに残りました。ドメーヌ・メオ=カミュゼのラベルが貼られた1988年ヴィンテージまでのクロ・パラントゥを醸造したのは、アンリ・ジャイエ本人です。

 

一方、1989年ヴィンテージ以降、アンリ・ジャイエの甥のエマニュエル・ルジェはジャイエの持ち分のクロ・パラントゥの一部を折半耕作し、ドメーヌ・エマニュエル・ルジェのラベルで出荷を始めます。アンリ・ジャイエは、公的には1995年ヴィンテージで引退したのですが、2001年までごく少量のワインをドメーヌ・アンリ・ジャイエのラベルで造り続けました。1996年以降のクロ・パラントゥには、ラベルの左上に ‘Réserve’ と表示されています。

 

アンリ・ジャイエの完全な引退に伴い、2001年がドメーヌ・アンリ・ジャイエのラベルでのクロ・パラントゥの最後のヴィンテージとなりました。2002年以降はドメーヌ・エマニュエル・ルジェとドメーヌ・メオ=カミュゼの二種類のラベルのみが存在し、年間生産量は750mlボトル換算で3,000~4,000本ほどです。どちらも非常に高品質な赤ワインですが、メオ=カミュゼのものは抽出が強くて硬い、モダンなスタイルである一方、エマニュエル・ルジェのワインはジャイエのスタイルを踏襲した、エレガントで柔らかな味わいです。

 

さて、ジュール・ラヴァル博士やカミーユ・ロディエが、レ・マルコンソールやレ・ボー・モン、オー・ブリュレやレ・スショを高く評価したのに対し、ラ・レヴュ・ド・ヴァン・ド・フランス誌がクロ・パラントゥをヴォーヌ・ロマネ村の最上の一級畑としたのはなぜなのでしょうか。

 

答えは簡単で、ラヴァルやロディエがブドウ畑の潜在力を格付けしたのに対し、ラ・レヴュ誌は流通しているワインの質の平均点を評価したのだと思います。クロ・パラントゥがブルゴーニュを代表する最上の生産者二社によって耕作・醸造されているのに対し、例えば面積が13haを超えるレ・スショは21のドメーヌに分割所有されており、所有者のすべてが優良な生産者というわけではありません。好条件の畑のワインのすべてが素晴らしいわけではなく、優良な生産者の手によって初めて、心に残るワインが生まれています。

 

 

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