(※写真はイメージです/PIXTA)

子のいない家庭において配偶者の一方が先立った場合、どのような問題が生じるのでしょうか。残された配偶者に起こりがちなトラブルとその対処法について、弁護士法人グレイス・森田博貴氏が解説します。

配偶者に「自宅」と「生活費」を残すには…

では、残された配偶者の生活を保障するため、一家の大黒柱としてはどのような手を打っておけばよいのでしょうか。その回答の一つは「遺言」と「生命保険」です。遺言を作成することによって、あなたが亡くなった後も遺された配偶者の生活を守ることができます。

 

前述したように、法律は各相続人に対して法定相続分を定めていますが、遺言はこの法定相続分に優先します。相続人の一人に対し、遺言によって法定相続分以上の遺産を与えることも法律上有効なのです。先の例で言えば、「自宅は妻に相続させる(相続分の指定を含む)」という遺言を残しておくことにより、妻が自宅を当然に取得できるほか、代償金の支払いを負担する必要もなくなります。

 

もっとも、この場合でも、「遺留分」の問題は残ります。遺留分とは、遺言によっても侵害できない相続人固有の権利であり、先程のような妻と夫実母のみが相続人の場合、夫実母には遺産に対して6分の1の遺留分が認められます(夫実母の法定相続分3分の1×2分の1)。遺産の総額が4200万円の場合、その内700万円は、遺言によっても奪うことができない夫実母の固有の権利(遺留分)となるのです。したがって、残された妻としては、遺産の内の預金200万円をすべて譲ったとしても足りず、さらに500万円の現金を夫実母に支払わなければならなくなるのです。

 

このような場合に役に立つのが生命保険です。生命保険金は、原則的に、遺産に該当せず、保険金受取人の固有の権利とされます。したがって、夫が自分自身を被保険者、妻を保険金受取人として生命保険を掛けていた場合、夫が亡くなった際に妻が生命保険会社から受け取る保険金は、夫実母に分配する必要がなく、また、遺留分の計算に含める必要もありません。

 

夫の生命保険金がたとえば1000万円である場合、妻は遺産と別にこの1000万円を取得することができ、先ほどの遺留分侵害額のうち、預金200万円(遺産)では不足していた500万円部分の支払いに充てることができます。そうすると、妻は、4000万円相当の自宅を取得して今後も従前どおりの住環境を維持できるほか、夫実母に対して遺留分侵害額700万円を支払ってもなお500万円の現金を遺すことができるのです。

 

■「相続=お金持ちの問題」と思われがちだが…

このように、子のいない家庭では、配偶者のうち一方が亡くなった場合、残された生存配偶者と死亡配偶者親族との間で感情的・経済的対立が発生し、生存配偶者の生活基盤が危険に晒されがちです。こうした問題は、特に世帯の資産構成において自宅の比率が高い世帯ほど起こりやすく、大都市圏の世帯ほど当てはまる傾向があります。

 

もし類似の状況にあれば、残された配偶者の生活を保障するためにも、お元気なうちに弁護士に相談し、「遺言」と「生命保険」を適切に活用して、ご自身の死後もご自身の親兄弟と配偶者とが争わずに済むような対策を取っておかれることが望ましいでしょう。

 

 

森田 博貴

弁護士法人グレイス

弁護士(鹿児島県弁護士会)

 

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