「子のいない夫婦の相続」は紛争になりがち
少子化が進む現代日本では、お子様のいない夫婦が数多く存在します。筆者もその一人です。このようなご家庭で、もし、どちらかが亡くなった場合、どのような問題が起きるのでしょうか。
法的に言えば、「相続」という問題が起きます。「相続」とは、人が亡くなった際に、その人の権利や義務が相続人に承継されることを言います。遺言があれば誰がどのように財産を承継するかはその記載内容に従うことになりますが、遺言がない場合は、法律が定めた相続人が法律の定めた割合(法定相続分)によってこれらを承継します。
子のない夫婦のどちらかが亡くなった場合、被相続人の父母や祖父母が生きている際には、彼らが被相続人の財産に対して3分の1の法定相続分を有し、被相続人の配偶者が3分の2の法定相続分を有します。被相続人の父母や祖父母はすでに亡くなっているが兄弟姉妹が存在するという場合、この兄弟姉妹が4分の1の法定相続分を有し、被相続人の配偶者が4分の3の法定相続分を有します。
子なし家庭の相続では、配偶者と被相続人の親・兄弟姉妹との間で利害が対立し、紛争に発展することが多いです。
たとえば、夫が亡くなった時点で妻と夫の母親が存命し、夫名義の財産として預金で200万円、自宅(土地・建物合わせて4000万円程度)が存在する一方、夫名義の住宅ローンも3000万円残っているというケースを考えてみましょう(夫は遺言を残していないことを前提とします)。
■「夫名義の自宅」に住み続けようにも、やむなく売却に至る妻が多い
まず、日本の住宅ローン制度では基本的に団体信用保険の加入が求められるため、住宅ローンの残金は団信の保険金で完済されます。したがって、預金200万円と自宅(土地・建物)の4000万円の合計4200万円がこのケースでの承継対象となります。このうち、妻の法定相続分は3分の2で2800万円、夫実母の法定相続分は3分の1で1400万円です。
この場合、妻が従前どおり自宅に住みたいと考えて自宅(土地・建物)の所有を希望したとすると、4200万円のうち4000万円相当の財産を妻が獲得することになるため、預金200万円を夫実母に譲っただけでは足りません。妻としては、代償金としてさらに現金1200万円を夫実母に支払い、総額1400万円という夫実母の権利を保障する必要が生じます。
もっとも、このような高額現金は、妻も持ち合わせていないことがほとんどです。そうすると、代償金の支払いができず、妻としてもやむなく自宅を売却し、現金に換えた上で夫実母とこれを分け合わなければならなくなります。しかし、これでは、妻は慣れ親しんだ自宅を失うことになりますし、売り急ぐことで不動産も廉価でしか売却できなくなります。