(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症は、診断や治療の開始が早期であればあるほど、症状の進行はゆるやかになることが分かっています。初期のうちに介入すれば、そうでなかった場合と比べ、心理機能・運動機能ともに改善することもあるのです。認知症が疑われる場合には速やかに受診することが望ましいですが、現実には、「認知症かもしれない人」ほど病院に行きたがりません。身近な人が認知症かもしれないと思ったとき、早期受診につなげるにはどうすればよいのでしょうか? 認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

最近何かおかしい…家族に「認知症の疑い」を抱いたら

家族が本人の異変に気づき「認知症かもしれない」と思ったとき、それを本人に説明して納得が得られたうえで、医療機関を受診できればそれが最も望ましい形です。しかし現実には、なかなかスムーズにいかないことも多いものです。

 

まず家族の心理として、「最近何かおかしい」と思い、できれば病院に連れていきたいとは思うものの、なかなか本人には言い出しにくいものです。どんなふうに切りだしたらいいのかと悩んでしまい、一歩を踏み出せないケースはたくさんあります。

 

次に、話ができたとしても本人が怒りだしてしまったり、そのうち行くとはぐらかされてしまったりすることも少なくありません。本人には病識がほとんどないので「おかしくないのになぜ病院に行かなければならないのか」と、釈然としない思いが湧き起こってくるものです。

 

これは、日頃の家族間の関係も少なからず影響してきます。普段から衝突が多かったり、コミュニケーションが希薄だったりすると、言われた本人は家族とはいえ敵対意識を持ってしまいがちです。家族が熱心にすすめればすすめるほど、「絶対に行くものか」とかたくなになってしまうこともあります。

 

よしんば日頃の関係がうまくいっていたとしても、認知症=痴呆と良くないイメージの言葉で誤解している人が多いものですから、自分がそうかもしれないと思うのは決して気分のいいものではありません。面倒だ、気が乗らないなど、言葉は穏便でも、病院に行く気がないことを暗に示すケースもたくさんあります。

 

どちらも、根本には「認知症と診断されたらどうしよう。認知症と言われたくない」といったネガティブな気持ちがあります。その気持ちを無視して、無理矢理病院に連れていったりすれば、家族との信頼関係は崩れてしまいますし、医師も敵視しかねません。そうなると医師との信頼が築けず、その後の治療に支障をきたすことにもなりかねません。家族の態度として、まず大切なのは「あなたはおかしい」「認知症に違いない」と決めつけないことです。

かかりつけ医に「ついでに診てもらう」という方法も

かかりつけ医がいれば、風邪などの軽い症状で受診した際に家族から認知症についても相談し、スクリーニングテストをしてもらうというのは最も自然な流れの一つではないかと思います。それで認知症が疑われれば、かかりつけ医から専門医へ紹介することになります。

 

健康診断を受ける目的でかかりつけ医などを受診し、先述と同様に認知症についても見立ててもらうというのも一つの方法です。近年は「老年科」などの、加齢にともない出現、進行しやすい症状を包括的に診る診療科もあります。精神科や神経内科の受診は心理的な敷居が高くても、こうした科なら比較的、抵抗感は少ないでしょう。

 

また、訪問診療をきっかけにして認知症の受診につなげるケースも増えてきました。地域の保健所や地域包括支援センターなどでも、訪問診療を行っている医師の紹介は可能です。自宅で血圧などの測定をしてもらいながら、もの忘れの状態を確認してもらうことができます。なお、自治体の窓口や地域包括支援センター等に相談する際は、日頃から、認知症が疑われる本人の行動や発言などの記録をメモや日記などで残しておくとよいでしょう。

「認知症初期集中支援チーム」の活用も有効

地域によっては、「認知症初期集中支援チーム」という、まだ医療機関受診につながっていない人に対応する体制を整えているところもあります。この活用も有用です。

 

認知症初期集中支援チームとは、医療にも介護にもつながっていない、あるいは過去に治療や介護を受けていたが現在は中断している認知症の人に対して、自宅を訪問し集中的かつ包括的に関わって医療や介護につなぐことによって、在宅生活の継続を目指す多職種チームです。

 

同チームの役割は、認知症当事者やそのご家族を訪問し、援助を行う前の評価(アセスメント)に基づいて、医療サービスや介護サービスとつなげることです。

 

2013年度に行った全国14ヵ所でのモデル事業では、チームが介入した9割以上が在宅生活を継続できており、その有用性が示されています。今後の認知症施策の柱として期待されます。2018年度には全市町村への設置を目標としています。

 

当院では松戸市の委託を受けて、2015年、2016年の2年間、初期集中支援チームによりケアプランを導入し、合計23人の患者のうち11人で症状の改善がみられています。ちなみにこの23人のうち、もともと認知症と診断を受けていたのは9例のみのため、半数の認知症患者が“隠れて”いたことになります。松戸市では約1万8000人が認知症と診断されています。

 

さて同チームの創設は、高齢者の増加に伴い、認知症の人がさらに増加することが見込まれていることを踏まえ、2012年9月に厚生労働省において策定された「認知症施策推進5カ年戦略(オレンジプラン)」を背景としています。そこに掲げられている7つの柱のうち、「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」を実現することを目的としています。

 

それまでは、医療にしても介護にしても、認知症の人に何かの危機が生じてからの事後的な対応に主眼が置かれていました。しかし反面、早期対応の遅れから認知症の症状が悪化、つまり危機が生じるのを防ぐ策が不十分であることや、ケアの現場での継続的なアセスメントができておらず、適切なケアが提供できていないなどの問題がありました。

 

これを受け、今後目指すべきケアは「早期支援」と「危機回避支援」の整備であり、危機の発生を防ぐことに基本を置くことが求められるとされ、認知症初期集中支援チームは「早期支援」機能として期待されています。

 

地域での生活が維持できるような支援をできる限り早い段階で包括的に提供するものであり、新たな認知症ケアの「起点」に位置づけられます。なお、この場合の「初期」とは必ずしも疾患の初期段階を指しているものではなく、適切なケアにつなぐ「初動」を意味しています。おおむね6ヵ月にわたり同チームが認知症の人とその家族を訪問し、アセスメントや家族支援等を通して自立生活のサポートを行ったうえで、本来の医療やケアチームに引き継いでいきます。

 

より具体的には、次のような支援を提供します。

 

●認知症かどうかの評価

●適切な医療機関の受診を促し、継続的な医療支援につなげる

●適切な介護サービスを案内

●生活環境の改善やケアについてのアドバイス

●介護者との情報共有

●介護者の負担軽減や健康保持についてのサポート

●啓発活動

 

認知症初期集中支援チームによる訪問支援が受けられる対象者は原則として、

 

①年齢が40歳以上

②在宅で生活

③認知症が疑われる、または認知症で医療や介護サービスを受けていないか中断している

 

この3点になります。③はさらに、

 

(1)認知症疾患の臨床診断を受けていない

(2)継続的な医療サービスを受けていない

(3)適切な介護保険サービスに結び付いていない

(4)診断されたが介護サービスが中断している、または医療サービス、介護サービスを受けているが認知症の行動・心理症状により対応に苦慮している事例

 

との条件が加わります。

 

窓口は地域包括支援センターになりますので、もし今、「家族が認知症かもしれない」、「病院に行きたがらない」ということで悩んでいたなら、まず同センターに相談することが足掛かりとなります。地域包括支援センターでは、認知症患者とその家族を総合的に支援しており、在宅生活についてのサポートも行っています。

 

なお現在のところ、認知症初期集中支援チームが設置されていない地域では、ケアマネージャーや社会福祉士、保健師などが窓口的な役割を担っています。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

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※本連載は、旭俊臣氏による『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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