(※写真はイメージです/PIXTA)

「向かい風だから離陸できる」。これはアメリカの実業家、ヘンリー・フォードの格言です。航空会社にとってコロナ禍はまさに「向かい風」となり、破綻に追い込まれる企業が相次ぎました。その一方で、困難を乗り切り需要回復に成功した企業も…。一体何が航空会社の明暗を分けたのでしょうか? ヨーロッパ株を中心に欧米株に精通したキャピタル アセットマネジメント株式会社が解説します。運用者の目線から、事例を交えつつ世界のツーリズム業界の動向を見ていくことで、資産運用の参考になるかもしれません。

困難を乗り切ったノルウェーの格安航空会社

フラッグ・キャリアではない航空会社、たとえば格安航空会社(LCC)の中にも、困難を乗り切った企業がありました。ノルウェーのLCC、ノルウェー・エアシャトルのケースを見てみましょう。ノルウェー・エアシャトルが主力としていたのは、ヨーロッパとニューヨークを結ぶ路線でした。2019年、ニューヨーク乗り入れ便の旅客数は200万人を超え、隣国カナダを拠点とするエア・カナダを上回りました。米国以外の航空会社の中で、ニューヨーク便の旅客数でトップの航空会社となったのです。

 

激震が走ったのは2020年3月11日のことです。新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、米国がヨーロッパ26ヵ国からの入国禁止措置を発表したのです。不運にも、大西洋路線を主力とするノルウェー・エアシャトルにとって深刻な打撃となりました。ヨーロッパ-米国便は、ロンドン発着便を除き、ほとんどの便が運航停止になるなど長距離路線では40%が、また北欧域内の短距離便も25%が運航停止となりました。その後も新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、旅客便の85%が運航停止に追い込まれました(図表1)。

 

単位:千人 期間:2019年1月~2022年4月 出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成
[図表1]ノルウェー・エアシャトル 月別有償旅客数 単位:千人
期間:2019年1月~2022年4月
出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成

 

3月19日にノルウェー政府が同国の航空会社に対する救済措置を発動しました。ノルウェー・エアシャトルは、当座の運転資金を確保しましたが、苦しい経営状況は続きました。しかし、5月20日、社内の再編を完了し、政府による30億ノルウェー・クローネの融資保証を取り付け、これにより127億ノルウェー・クローネにのぼる負債の株式への転換に成功しました。財務基盤を強化し、ノルウェー・エアシャトルは戦略の立て直しを図ります。

 

7月以降、ノルウェー・エアシャトルは、顧客の要望に応じて、英国発着のヨーロッパ域内の路線の拡充に努めました。それ以後、旅客数は徐々に回復していきました。同社はまた、政府支援を獲得するべく再建計画の策定を進めました。朗報は、2021年1月にやってきました。ノルウェー政府は、再建計画を承認し、政府支援を決定したのです。

 

■政府支援の決め手は「乗客に愛されていること」

ノルウェー・エアシャトルは、APEX(Airline Passenger Experience Association)の航空会社評価で、LCCでは最高評価の四つ星を毎年獲得しています。APEXは、搭乗者の意見を基に航空会社を評価する機関で、授与される賞は顧客満足度を反映したものです。搭乗者に愛されていることも政府が支援を決めた要因の一つではないでしょうか。ここが重要なポイントだと筆者は考えています。2022年4月、搭乗者数は前年同月比78%増、前月比50%増の140万人に達しました。向かい風の中、離陸に成功したと評価してよいのではないでしょうか。

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