(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍は、世界のツーリズム業態にどのような影響をもたらしたのでしょうか? 今回は欧州のキャンピングカー業界に着目して見ていきましょう。ヨーロッパ株を中心に欧米株に精通したキャピタル アセットマネジメント株式会社が解説します。運用者の目線から、事例を交えつつ世界のバカンス(旅行観)の違いを見ていくことで、資産運用の参考になるかもしれません。

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「自然の中で過ごす時間」を大切にしてきた欧州の人々

前回の記事で、世界最大のクルーズ船ワンダー・オブ・ザ・シーズが、この3月に就航したことをご紹介しました。ツーリズム業界にとっては大変喜ばしい出来事であったと思います。

 

ワンダー・オブ・ザ・シーズは、フランスのロワール川河口の大西洋岸の町サン・ナゼールのアトランティーク造船所で建造されました。筆者が青春の貴重な1ページを刻んだ思い出の場所もフランスのロワール川流域の町でした。サン・ナゼールは、当時暮らしていたアパルトマンから、車で1時間ほどの距離にあり、筆者もしばしば訪れました。

 

サン・ナゼールは、ロワール川河口と大西洋沿岸など自然の風景と巨大な港や造船所といった近代的な風景とが調和した、ロワール地方でも有数の観光スポットになっています。

 

少し内陸に入ると、湿原が広がる自然公園もあります。海岸、大河の河口、緑の湿原と思わず見入ってしまう自然の景観が人を惹きつけるこの辺りは、数多くのキャンプ場が集まっています。筆者が親しくしていたフランス人の家族(Famille d'accueil)も、自然の中で過ごす時間を増やすため、週末によくキャンプに出かけていました。職場や居宅から離れることを意識した本来のバカンスの小型版(Petites vacances)を、年に何度も楽しんでいたのです。

 

 

 

キャンピングカー業界は、自然との触れあいをより身近なものにすることで成長してきた業界です。主力商品として、キャンピングカーの進化に注力するとともに、そのノウハウを活かして、多くのキャンピングカーメーカーが、レジャーホーム(Habitation de loisirs)にも進出しました。キャンピングカーよりも開放的な移動式の居住空間を作り上げたのです。日本でいうトレーラーハウスにあたりますが、Mobil-home(移動住宅)と呼ばれています。

 

Mobil-homeは、キャンプ場や居住用レジャーパーク(Parc résidentiel de loisirs)用に製造されており、キャンプ場内の1区画を賃借、あるいは居住用レジャーパーク内の1区画を賃借または購入して設置します。キャンプと別荘ライフの両方の醍醐味を味わうことができることから、ヨーロッパでも確固たる人気を誇っています。

コロナ禍の夏、キャンピングカーは一気に「主役」へ

ヨーロッパでは、自然と接する術が数多くあるように思えます。そして、その一翼を担ってきたのが、キャンピングカー業界であったことは疑いようもない事実でしょう。新型コロナウイルス感染症パンデミック前から、レジャー産業の中心であったと言えるかもしれません。それが、パンデミックの発生により、クローズアップされただけだと筆者は認識しています。

 

フランスでは、毎年バカンスシーズンが近づくと、人々の最大の関心はバカンスをどのように過ごすかということになります。新聞やテレビで、調査結果が伝えられるのですが、新型コロナウイルス感染症パンデミックが発生した2020年は、どの調査結果も外国旅行を予定している人の割合が激減し、国内旅行を予定している人の割合が増加するというものでした。国内でのバカンスで、しかも密を避けた移動手段として、キャンピングカーに白羽の矢が立ったのです。こうしてキャンピングカーメーカーは、受注の増加に対応すべく製造作業に追われることになりました。

 

ロワール川は、フランス中南部の山地を源流に、フランス中央部を流れ、大西洋に注ぐ、全長1,000kmを超える大河です。自然の景観に恵まれたロワール川流域が、キャンプ場の宝庫ということもあり、多くのキャンピングカーメーカーがロワール地方に生産拠点を置いています。拡大する需要に対応すべく急ピッチで作業が行われている様子がテレビのニュースで映し出されたり、新聞等のメディアで取り上げられたりすることがしばしばありました。もちろん、キャンピングカーを買い求めるバカンシエの様子も、記事や映像で伝えられることがよくありました。2020年6月、フランスでキャンピングカー登録台数が記録を更新しました。

大手メーカーでは、冬期の売上が「コロナ前」より増加

【図表】は、フランスのキャンピングカーメーカー大手であるトリガノ社の四半期毎の売上高を示したものです。同社は、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、売上を伸ばしたことがわかります。2020年6月中旬以降、ヨーロッパで国境封鎖が解除されていきました。当初は、国内バカンス需要の拡大で売上を伸ばしていったキャンピングカー業界が、外国でのキャンプを嗜好する人の需要も取り込んで、売上を伸ばしていったのではないでしょうか。

 

出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成
【図表】トリガノ社の四半期売上高(単位:百万ユーロ) 出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成

 

トリガノ社の四半期毎の売上を見ていて興味深く感じるのは、冬になっても売上があまり減少していないということです。2020年12月~2021年2月期の売上は、前年同期、前々年同期の売上をむしろ上回っています。面白いことに、冬期の売上は、新型コロナウイルスの発生以前よりも増加しているということになります。

 

第1回の記事で、ヨーロッパのバカンスシーズンが始まるのが5月であることをお伝えしましたが、バカンスシーズンに終了時期というのはないのかもしれません(【⇒関連記事:コロナ禍のツーリズム…日本とヨーロッパの「驚くべき温度差」】)。ヨーロッパでは、冬場のキャンプを楽しむ人が増加しているようです。夏季キャンプではレンタルキャンピングカーで済ませていたバカンシエが、味を占めて冬場のキャンプにとキャンピングカーの購入に動いたのかもしれません。また、レンタカー会社も冬場の需要増を見込み、調達に動いたということも考えられます。新型コロナウイルスは、ここにも影響を与えたようです。

 

ヨーロッパでは、スキー場にキャンピングカーで出かける人も多いようです。第1回の記事で、夏のバカンスを盛り上げるのは南欧諸国だとお話ししましたが、冬季キャンプの本場は、アルプス山脈周辺のドイツ、オーストリア、スイス、イタリアのようです。ウィンタースポーツをする上で頭を悩ますのは、宿泊にかける予算です。キャンピングカーは、宿泊代を削ってスポーツそのものにお金を使いたいというニーズにもうまく応えています。

 

数ヵ月前、ドイツの冬季キャンプに関する記事(France 3)が目に留まりました。冬期運営しているキャンプ場の数は800にものぼり、10万人ものバカンシエが冬季キャンプを楽しんでいるとのことでした。新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響で外出規制や国境封鎖措置が各国で取られました。それで、バカンス=“生活上不可欠なもの”の終了時期がずれたのでしょう。ここにも、ヨーロッパ人の「バカンス観」を見たような気がします。

 

 

キャピタル アセットマネジメント株式会社

 

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