(※写真はイメージです/PIXTA)

観光・レジャー産業の中でも、クルーズ業界はコロナ禍により強い制限を受け、苦戦を強いられた産業の一つです。クルーズ船と言えば、日本人にとっては「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染を想起させることから、コロナ前の活況を取り戻すのは容易ではないように思えるかもしれません。ところが世界の動向を見ると…。

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集団感染でイメージダウン、運航停止に陥ったが…

国内で初の新型コロナウイルスの感染が確認されたのは、2020年1月16日のことでした。それから3週間後、2月5日に大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員のうち10人が新型コロナウイルス検査で陽性と確認されました。これが国内初の集団感染となってしまいました。3月に入ると、今度は米国で、カリフォルニア州沖に停泊中のクルーズ船グランド・プリンセス号の乗客乗員のうち21人が、新型コロナウイルスに感染しました。

 

また、4月には長崎市に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカ号で乗員1名の新型コロナウイルス感染が確認されました。濃厚接触者57人に対する検査の結果、33人の感染が確認され、これは1ヵ所で5人以上の感染が発生するクラスター感染とされました。内外で相次いで起こるクルーズ船での集団感染を受けて、クルーズに対するイメージは悪化の一途を辿りました。クルーズ関連銘柄の株価は相応に反応し、軒並み急落となりました。

 

クルーズの運航が停止されると、クルーズ運航会社の経営を危ぶむ声が強まりました。クルーズ運航会社は、資本市場での資金調達に迫られました。朗報が飛び込んできたのは、4月6日のことでした。サウジアラビア政府系のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が、世界最大のクルーズ運航会社であるカーニバルの株式を8.2%取得したと発表したのです。その日、カーニバルの株価は20.3%上昇しました。この報道を好感して、他の大手クルーズ運航会社、ロイヤル・カリビアンの株価は21.4%、ノルウェージャンクルーズラインの株価も18.3%と大幅な上昇となりました。

出資者が現れたのは「必然」…クルーズ産業の実力

筆者は、PIFのような出資者が現れたのは、決して偶然ではなかったと考えています。つまり、出資者が現れるだけの相応な理由があったということです。まず、クルーズ業界を産業の一つとして捉えてみましょう。この産業の特徴として、まず高い参入障壁が挙げられます。クルーズ業界は、大手3社が市場シェアの70%を占めていることから、極めて市場集中度の高い産業であると言えます。しかしながら、この市場シェアを維持するには高度なノウハウが必要となります。大手企業は、財務戦略やブランディング等の経営ノウハウを兼ね備えています。新規参入は容易ではありません。

 

【図表】のグラフをみると、クルーズ業界が順調に成長してきたことがわかります。クルーズ乗船客数は、毎年高い伸びを示し、クルーズ業界の売上高の伸びに寄与してきました。クルーズ業界は、レジャー産業の中でも成長産業の一つです。カジノ、劇場、スケートリンク、ダンスホールなどを備えたクルーズは、それ自体が場所の移動手段というよりはレジャーそのものであり、船旅を楽しみながら、いくつものアトラクションを楽しむことができます。また、託児施設も完備していることから、子供を預けて大人だけでレストランやバーに行くこともできます。クルーズは、家族単位で愛好者を増やしてきたのです。

 

出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成
【図表】大手クルーズ運航会社の乗船客数(単位:百万人) 出所:Bloombergの情報を基にキャピタル アセットマネジメント(CAM)が作成

 

近年、クルーズ各社は、客船の大型化を進めてきました。大型船を導入する目的は、クルーズ愛好者増加への対応と、もう一つは手の届く料金設定を可能にすることにありました。大型クルーズ船の導入により、新たなクルーズ愛好者を生み出すという好循環が生まれたのです。また、クルーズ船を大型化することで、より多くのアトラクションを備えることもできるようになりました。本来リピーターの多いクルーズですが、新しいアトラクションを加えることにより、さらにリピーターを増やすことにも成功していたのです。

コロナ禍で垣間見えた「潜在需要の強さ」

今回の新型コロナウイルス感染症パンデミックで、クルーズの潜在需要の強さを垣間見ることになりました。2020年にクルーズ旅行を予定していた人のうち、現金の払い戻しよりも2021年のクルーズへの振替を希望した人は、2020年5月時点で半数を超えていたと言われています。クルーズの潜在需要の大きさを物語っています。安全さえ保証されれば、クルーズ旅行をしたいと考えている人は相当数に上ると考えられます。クルーズ業界に君臨している大手企業は、強固な顧客基盤に支えられているのです。

 

参入障壁が高く、しかも忠実な顧客(根強いファン)を持つ企業への出資を希望するファンドが出現したのは、ある意味必然の結果であったといっても過言ではないでしょう。

 

その後も、新型コロナウイルスの感染拡大は収束せず、クルーズ運航停止期間が何度も延長されました。キャッシュバーン(資金燃焼)を危惧する声もありましたが、大手クルーズ運航会社の株価が大きく下落することはありませんでした。それは財務面での懸念が後退していたからです。クルーズ運航会社各社は、必要に応じて追加借入や新株発行を行い、財務基盤を強化して困難を乗り切ったのです。

 

2021年の春先、クルーズ運航会社は運航再開に漕ぎ着けました。3月にカナリア諸島を巡るクルーズの運航が再開しました。本格的にバカンスが始動する5月には、イタリア国内周遊、東地中海周遊、ギリシャ周遊クルーズが相次いで運航を再開しました。米国発着のクルーズの運航再開には、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインを満たす必要がありました。このガイドラインは、乗船客と乗員のワクチン接種証明を運航再開条件としていましたが、ロイヤル・カリビアン傘下のセレブリティ・クルーズが、CDCの条件をクリアし、6月下旬にカリブ海クルーズを再開させました。

 

そして、2022年3月4日、新型コロナウイルスの影響で約1年の遅れとなりましたが、世界最大のクルーズ船ワンダー・オブ・ザ・シーズが就航しました。2022年3月30日、CDCは、新型コロナウイルス感染症パンデミック発生以降に発出していたクルーズ関連の警告をすべて解除しました。これから、本格的な運航再開に向かいます。予約の状況も好調なようです。前回の記事で“日欧のバカンス観の違い”をご紹介しました(【⇒関連記事:コロナ禍のツーリズム…日本とヨーロッパの「驚くべき温度差」】)。筆者は、欧米での生活が長く、欧米人的なバカンス観に共感しています。クルーズ愛好者として、そろそろプランを練らなければと思う今日この頃です。

 

 

キャピタル アセットマネジメント株式会社

 

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