世界第1位の観光大国、フランス
■いまや「現代アートの街」だが…人気観光地・ナントの変遷
筆者の国際経験は、フランス西部ロワール地方の最大都市ナントで始まりました。ナントは、1598年にフランス王アンリ4世がプロテスタントの信仰を認めた勅令を発布した都市として知られています。
ここはまた、フランスの小説家ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の生誕の地としても有名です。『海底二万里』(Vingt mille lieues sous les mers)や『八十日間世界一周』(Le Tour du monde en quatre-vingts jours)の作品で知られる彼は、SF作品のパイオニア的な存在として語られることが多いのですが、彼のテーマは“旅”だったのではないでしょうか。当時から交易が盛んであったロワール河畔の港で、行き交う商船をみながら想像力を膨らませていったと筆者は考えています。
ジュール・ヴェルヌが見た港も近代化が進みました。ロワール河口の隣町サン・ナゼールと合わせナント-サン・ナゼール港(Le port de Nantes Saint-Nazaire)と呼ばれる巨大な港湾基地を形成し、貨物取扱量ではフランス第4位のコンテナターミナルに成長しています。

かつて、パリ-ナント間を特急列車“ジュール・ヴェルヌ号”が走っていました。日本風に言うと在来線特急だったのですが、高速鉄道網の整備が進み、TGV高速鉄道(Train à Grande Vitesse)が、これに取って代わりました。1998年の夏にナントを訪れる機会があったのですが、その時にはすでにその姿はなく、ナント駅(Gare de Nantes)の駅舎も近代的なターミナル駅へと変貌を遂げていました。昔の面影はまったく感じられず、鉄道ファンとして寂寥感に襲われたのを覚えています。
その後、筆者は米国、英国、カナダと海外生活をすることになるのですが、初めての外国暮らしがフランスであったこともあり、自身は“フランス贔屓”(Francophile)だと感じることがよくあります。これが良くも悪くも、グローバル投資という筆者の仕事の中にも知らず知らずのうちに出現しているようです。
フランスに次ぐ世界第2位の観光大国、スペイン
筆者には、旅行・観光関連企業のリサーチをする上で欠かせないパートナーがいます。スペインのバルセロナを本拠地とするGVC Gaesco社の仲間たちです。なかでも、国際営業部長のサンティアゴ・バスケス氏(写真1)は、いつも的確な情報をタイムリーに提供してくれる筆者にとって最も頼りになる“相棒”です。

スペインは、フランスに次ぐ世界第2位の観光大国です(図表2)。国家を挙げて観光業に力を入れており、国際観光客到着数の推移のグラフ(図表3)も見ていただくとわかるとおりフランスを猛追しています。

出所:国連世界観光機関(UNWTO)

スペインの“お家芸”ともいうべきツーリズムについて思うところを、バスケス氏が語ってくれたことがあります。彼にとってツーリズムとは、自身の休暇というより、訪問者を受け入れる側としてのイメージのほうが強かったようです。米国の小説家アーネスト・ヘミングウェイが、スペイン北部の町パンプローナを初めて訪れたのは、1923年のことでした。カナダの二大全国紙の一つであるトロント・スターに勤めていた彼は、レポーターとして訪れたこの町で、サン・フェルミン(San Fermines)の牛追い祭りに圧倒され、この祭りをテーマに小説を書き上げました。それが、“The Sun Also Rises”『日はまた昇る』です。

■映画のロケ地、引退後の移住先としても人気
スペインはまた、映画のロケ地としても有名です。『続・夕陽のガンマン』、『ドクトル・ジバゴ』、『パットン大戦車軍団』、『アラビアのロレンス』といった名作がスペインで撮影されています。なぜ、スペインは映画のロケ地に最適なのでしょうか。バスケス氏は、スペインの気候と景観の良さを理由に挙げています。太陽、海岸線、山岳地帯といった自然の景観に加え、古代ローマ遺跡などの歴史的遺産も備わっています。映画の撮影には打って付けの場所だったのでしょう。
映画産業にとって魅力のある国は、外国人観光客を惹きつける力もあります。スペインが、外国人観光客の誘致に注力し始めたのは1960年代のことです。内戦や第二次世界大戦の傷が未だ癒えず、脆弱な経済に喘いでいたころ、これを打破しようと、自然の景観を売り物に外国人観光客誘致キャンペーンを展開していったのです。そしていつしか観光政策が経済政策の柱になりました。
ヨーロッパ人を惹きつけるには、太陽と海岸があれば十分だったようです。英国人、ドイツ人、オランダ人、フランス人たちが、バカンスでスペインに押し寄せるようになりました。同時に、海岸沿いに多くの建物が建ち始めました。物件を求めるヨーロッパ人の増加を見込んだものです。彼らの多くは、引退後のスペイン移住を計画して物件を購入していたのです。スペインを移住先に選んだヨーロッパ人は、英国人がトップで、ドイツ人、オランダ人と続きました。
ヨーロッパ人が太陽を求める理由
■欧州人にとって“生活上必要不可欠”なバカンス、その原点でもある?
では、なぜ引退後の移住先としてスペインは人気があるのでしょうか。バスケス氏が、興味深い話をしてくれました。スペインの天候とヨーロッパ人の健康が大いに関係しているというのです。加齢とともに骨密度は低下します。骨粗鬆症を発症するリスクが高くなるのです。骨密度の低下を予防するには、カルシウムの吸収を高める必要があります。カルシウムの吸収を促進する栄養素はビタミンDです。そして、ビタミンDの生成のためには日光の照射が欠かせないのです。すなわち、骨密度の低下予防には、日光浴が必要だという論理が成り立つことになります。
英国の年間日照時間は1,400時間程度、ドイツやオランダは1,600~1,700時間ですが、スペインの年間日照時間は、およそ倍の3,000時間と言われています。健康維持がスペイン移住の理由ということなのでしょう。これが、バカンスの原点だったのではないでしょうか。バカンスに出かけた人は、体調が良くなっていることに気づいたのでしょうか。以来継続し、バカンスが文化として根付いていったという仮説も面白いのではないでしょうか。当初は、肉体的な健康の増進であったものが、人間が本来もっている好奇心をも満たしてくれたことから、精神面でのリフレッシュにも繋がり、“生活上不可欠なもの”に成長していったような気がします。
GVC Gaesco社の面々は愛国心が旺盛です。彼らは特段そう思ってはいないかもしれませんが、一緒に仕事をしていると、至るところにそれが見え隠れしているのです。反対に、筆者がフランス贔屓(Francophile)であることを彼らは熟知しているようです。愉快なことに、フランスとスペインという観光大国のせめぎあいは、われわれの銘柄選択の場にまで及んでいるのです。正しく、切磋琢磨しながら運用力を磨き上げているといった感じです。
『コロナ禍における「世界のツーリズム業態」の動向』の連載も、これが最終回となります。各業界とも逆風を巧みに乗り切ってきたことをご紹介してまいりました。コロナ禍に遭っても、政府、旅行・観光に携わる各業界、そしてバカンシエ(休暇をとる人)が一体となって、文化としてのバカンスを守り抜こうとする強い心意気を感じていただけたのであれば、幸甚の至りに存じます。
最後に、拙稿にお付き合いくださいました読者の皆さまと今回連載の機会を与えてくださいました株式会社幻冬舎ゴールドオンラインの皆さまに心より御礼を申し上げ、筆をおくことといたします。
キャピタル アセットマネジメント株式会社
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