2030年までに「温室効果ガス排出量46%減」は可能か
高橋:さてそれでは、そのようなことを踏まえたうえで、これからの我が国の住宅性能に係る政策の方向性について伺っていきたいと思います。まずそれを考える上でとても重要なことだと思うのですが、菅前総理が、2030年度までの温室効果ガス排出量の削減目標を13年度比46%に引き上げました。この目標を達成することの重要性とその達成可能性については、どのようにお考えでしょうか?
柿沢:まず、これは国際公約として実現するといった以上、どんなことをしてでも達成しなければならないことだと思います。政治家が意思決定して、その意思決定に従って各省庁の施策もそれに則った方向性に急速に見直されつつあります。46%への削減目標引き上げがなければ、この1年でこんなに状況はガラッと変わらなかったと思います。その意味では非常に重要で、エポックメイキングなできごとだったと思います。
しかしながら直近の状況を見ていると、円安、原油高、ウクライナ侵略戦争などの影響で、この地球温暖化対策やエネルギーの問題は、原油高対策のような上がった価格を下げるための補助金みたいな短期の負担軽減策ばかりに目が向いてしまっていると感じます。中長期の社会構造変革のほうは、「そんなことやっている場合じゃないよね」みたいな空気が流れていることを憂慮せざるを得ないですね。
戦争だし非常時だし、みたいなことを理由として、到達しなければいけない世界中が目指している目標を、日本が半ば短期的な要請によって反故にするみたいな空気が一部に感じられるところを非常に心配しています。
国際公約に掲げたものの…CO2削減に消極的な日本政府
高橋:確かに、国際公約であるのにもかかわらず、「達成は無理だよね」という空気がまん延しているような気がしています。そこは政治や各省庁の強い意志が重要だと思うのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?
田嶋:圧倒的な議席数を誇るいまの政権与党であれば、目先ものすごく嫌われることもやれるような環境にはあるはずなのですが、おっしゃるとおり、いまのままいったら難しいですよね。
カーボンニュートラルっていうのを勘違いされている人もいるかもしれないけど、カーボンニュートラルを2050年に達成していればセーフかっていうと、全然そうではないんですよね。パリ協定では産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇2℃以下に、できる限り1.5℃に抑えるという目標が示されています。気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2030年までに2010年比でCO2排出量を約45%削減する必要があります。
つまり、2050年にぎりぎり達成するのではまったく駄目で、2030年までの削減目標を必ず達成しなければならないということです。そうなると、本当に厳しい状況は明らかで、政治が嫌われ役になれるかですよ。だから、そことの政治のまさに戦い。おっしゃるとおり、政治がその方向性示せば、日本は特に「右へならえ」ができる国民性があるので、政治が役割を果たさなければならない。
ところが、簡単にできることも、取り組みがまったく不十分なんです。最近の質疑でがっかりしたのは、国道の照明のLED化率がまだ30%なんですよ。7年前に千葉市では、当時の熊谷市長が市道の照明のLED化を半年で全部やったんですね。LED化したら、千葉市から税金で支払っている電気代負担が年間4億円減ったんですよ。LED化の導入費用はリースでやるんですけど、最初の電気代と、節減されたあとのLEDの電気代とリース代を引いた残りが4億円ですからね。
この取り組みは、どこでも水平展開できて、やればその規模に応じて節約ができるんですよ。これはすごいことなので、「ぜひ全国で」っていっているのだけど、本家本元の国土交通省が自分で持っている国道のLED化が、当時16%、いまは30%。とてもお寒い限りですよね。
このように役所も、本当に危機感が足りないと思います。なんとかなると思っているのか、諦めているのか、俺はどうせ2年で人事異動だと思っているのか。とても残念なことです。
高橋:なるほど。よく、「乾いた雑巾を絞る」なんて表現もあって、日本は世界でも省エネに積極的に取り組んでいるとか、省エネはもう限界とか、勘違いしている方も多いようですね。諸外国からは、日本の消極的な脱炭素への取り組み姿勢について、非常に冷たい目で見られていますし、痛みを伴わなくてできることがまだまだあるのに、それをやっていないような気がします。特に、住宅分野は、その傾向が顕著だと思います。