住宅性能の向上が、貿易赤字削減につながる!?
高橋:少し話が変わりますが、エネルギー価格の高騰で、貿易赤字が拡大しています。この観点からも家庭部門の省エネはとても重要だと思うのですが、いかがでしょうか?
田嶋:とても大事だと思います。先ほどの道路照明のLED化の話と同じで、住宅もイニシャルコスト増による負担以上に、ランニングコストが下がるんだったら、いいことばかりですよ。国の観点からすると、貿易赤字をなるべく減らしていくことが必要です。
化石燃料の輸入については、一番多いときで17兆円くらい輸入していたんですけど、いまは10兆円を下回ってきました。ただ、今回のウクライナの件で、また跳ね上がる可能性もありますし、円が安くなるっていうこともあるので、その観点からも化石燃料の輸入は減らしていくことが望ましいですね。
柿沢:10兆円って、とても大きな額ですよね。省エネとか脱炭素って、どちらかというと左派が推進しているイメージがある気がするのですが、それだけの国富が外に流出しているということについて、ナショナリスティックな考えを非常に強く政治家もすごく敏感に感じられるところなんじゃないかと思います。
高橋:そのとおりだと思います。それでいまのお話の延長線上でいうと、エネルギー安全保障という観点で住宅の断熱性能を考えることも必要だと思います。
資源の乏しさというハンディが「強み」に変わる
柿沢:私はよくレトリックとして表現するんですけど、10兆円、20兆円みたいなお金を化石燃料の輸入によって、アラブの王様や王子様に貢いでいるわけです。そんなお金の使い方よりも、自分の国のなかでそのお金が還流したほうがいいに決まっているじゃないですか。
田嶋:あるいはロシアにね。
柿沢:ということですよね。いまならロシアの独裁者にそのお金が行っちゃうんですよと。結果的に独裁者が栄えることを間接にアシストしていることにもなる。
これを変えていくためには、住宅・建築物の断熱の問題もそうですし、再生可能エネルギーの導入促進も重要です。再エネ比率が高まれば高まるほど、基本的にエネルギー自給率が高まるということになる。
第二次世界大戦を振り返れば、日本は石油の禁輸みたいなことをされて、切羽詰まって戦争に乗り出していったみたいなことがいわれているわけです。世界中の過去の戦争の多くも資源をめぐる紛争から起きています。
脱化石燃料が進めば、石油資源をめぐる奪い合いもなくなりますから、世界から戦争をなくすことにもつながるわけです。いうなれば、省エネと再エネの拡大でエネルギーの国産自給ができればエネルギー安全保障に資するということを訴えるのが、左派的な方も右派的な方も両方この政策に同意してくれるものの言い方なのかなというのは感じているところなんです。
田嶋:資源の乏しい国、日本って、ずっと教科書に書いてあるじゃないですか。見方を変えると、私がすごく希望を感じるのは、海外からの化石燃料つまりCO2を出す地下資源に頼らない時代がやってきたら、最大の勝者は、僕は日本になりうると思うんです。
というのは、自国で石炭を掘って燃やしているような国は、雇用が失われたりっていう問題が大きいですよね。それに対して、日本は全部よそから買ってきて、お金払っていた国なんだから、それが一日一日減っていけば、一日一日国内に金が残るでしょう?
だから、最大の勝者になれるんじゃないのかな。ハンディが、逆にこれからの時代は強みに転換できますよね。そう考えると、やらない理由がわかんない。
高橋:日本では省エネ基準、つまり「省エネ」という観点から、住宅の断熱性能等の基準が定められています。それに対して欧米では、居住者の健康という観点からも、断熱性能の基準が定められているようですね。
現在、EUではエネルギーのコスト急激に上がって、暖房の温度設定下げて寒いのを我慢しているということも報道されています。無暖房でも、一定以上の室温を確保できる断熱性能を確保するということは、エネルギーを輸入に依存している国がなにか有事の際にそれが入ってこなくなったときに、極端な話、暖房を止めてもなんとか暮らしていけるよねっていう環境を確保できるわけです。
そういう観点からも含めて、住宅の断熱性能は、省エネだけでなく、国民の健康、QOL(Quality of Life)向上、エネルギー安全保障といった観点を加えて総合的に考えていくことが重要なのではないのかなと思います。