現金の贈与であっても「生命保険金」は要注意
形がないものであっても、生命保険は曲者です。相続のときにわかってしまうからです。亡くなった方が保険料を負担していた生命保険金を受け取った場合、生命保険金を相続により取得したとみなされます。つまり、亡くなった親が掛け金を負担していて、子どもが生命保険金を受け取ると、それは親から子どもに対する相続となるわけです。
子ども全員が受取人になっていれば問題はないですし、跡取りが1人だけ受取人になっているのも理解できます。ところが、3人のうち2人だけが受取人であったことから、きょうだいがもめてしまったという例を聞いています。
■「自分だけ、生命保険金の受取人から外されている」相続の場で知った長男
受取人だった2人はそれぞれ結婚して独立していたのですが、残りの1人である長男は独身で、亡くなったお母さんと同居していました。おそらく、お母さんは同居している長男に対して、普段から何かと援助をしていたのではないかと思います。それで、バランスをとるために残りの2人を生命保険金の受取人にしたのかもしれません。
生命保険金には非課税枠があるのですが、相続に際しては相続財産に合算し、申告しなければなりません。ですから、2人は自分たちだけが受取人になることが明るみに出るのを恐れたわけです。しかし、隠し通すわけにはいきません。やがては長男の知るところとなりました。
最終的には、なんとか収まったそうですが、一時はやや険悪な雰囲気になったと聞きます。無理もありません。自分の知らないところで、残りの2人が結託しているように感じたに違いありません。
親にしてみれば、生命保険金でバランスがとれると考えたのでしょうが、相続の場面でそれを知った長男の気持ちも想像しておくべきでした。できれば、長男にも別に何かを渡しておけばよかったのだと思います。
現金でなくても、ある程度まとまった資産を渡しておけば、長男も「自分は生命保険金の受取人ではなかったけれども、それは自分がこれまで同居してお世話になっているから、残りの2人とのバランスを考えたのだろう」と冷静に考えることができたかもしれません。
私たちが見てきた範囲では、「この子だけが憎くて渡すのが嫌だ」という親はほとんどいません。たいてい親はバランスを考えているのです。ただ、それを子どもたちにうまく理解してもらえるようにしないと、もめる原因になってしまうのです。
天野隆
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士、宅地建物取引士、CFP
天野大輔
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士
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