置物、絵画、和服…「形あるもの」の贈与はもめやすい
もめごとを避けるには、何をどう贈与するかも重要です。それによって、きょうだいのもめごとが起きにくくなったり、起きやすくなったりするからです。
もめごとが起きにくいのは現金の贈与です。形に残りませんから、あげた親ともらった子さえ黙っていれば、まず表には出てきません。少なくとも3年たてば、わざわざ表に出す必要もありません。
問題なのは形があるものです。たとえば、家やマンションといった物件はもちろんですが、立派な置物や絵画など、わかりやすいものを贈与すると話がややこしくなります。
よく問題になるのは和服です。こんなことがありました。
亡くなったお母さんには2人の娘さんがいて、生前に一時同居していた長女が、引っ越しの際に着物をほとんど持っていってしまったのです。おそらく、お母さんも「もう着ないからいいわよ」くらいのことは言ったのかもしれませんので、贈与にはなるでしょう。ただ、古い着物はよほどのものでない限り、相続財産に含める価値はありません。私たち税理士は黙っていますし、税務署も気がつきません。気がついても問題にはしないでしょう。
しかし、次女にとっては重要な問題でした。タンスにあったはずの着物がごっそりなくなっているのを、相続のときに知ったようです。もっとも、それを表立って口に出すことはありませんでした。そんなものを、もらった、もらわないと言い出したら、もめごとになるだけだとわかっていたからです。
とはいえ、お母さんの形見でもある着物ですから、心の中ではさぞかし憤懣(ふんまん)やるかたなかったのではないかと想像します。
■贈与はいわば「親の愛情の奪い合い」。金銭的な価値が問題なのではない
こういうことはよくあるのです。私たちの仕事が終わり、ご家族とお茶を飲みながら雑談をしていると、「タンスにあんなに着物があったのに、どうしたんでしょう」というせりふがぽろっと出てくることがあります。そんなひと言に、本心が出てしまうのでしょうが、下手をしたらそこでドンパチがはじまるかもしれません。ですから、そうしたことばを聞くと、私たちはギクッとしてしまうのです。
これは贈与にまつわる問題ではありますが、金銭的な価値が問題なのではありません。いわば親の愛情の奪い合いといってもよいでしょう。こんなことを言うと怒られそうですが、男同士よりも女同士のほうが、思い出の品に対する執着が強いようです。他人が見たら価値のないアクセサリー一つでも、姉妹の仲が険悪になることがあります。
男の場合は、そうした品ではなく、「兄貴のほうが結婚式が盛大だった」「オレは公立だったのに、弟は私立だった」という過去の出来事で険悪になる傾向があるようです。