TSMCをコアとする「日本ハイテク復活」のカギ
TSMCが日本ハイテクの救世主になるという夢が実現する
TSMCが日本ハイテクの救世主となる際に、130円という円安がその推進力になる。白川日銀総裁時代の1ドル80円の円高の下でエルピーダメモリが破たんしてマイクロンテクノロジーに買収されたが、今日本のマイクロン広島工場は最も高収益の工場になっているはずである。
同様にこの円安進行の下で、TSMCの熊本工場(図表2)のアップグレードと増強が想定される。日本のコスト高を補填すべく、政府が熊本工場に約4,000億円の資金供与を約束したが、1ドル120~130円になると日本工場のコスト競争力が大きく高まる。
台湾一極集中のTSMCは、地政学的リスクヘッジおよび米国からの要請という面からも、工場の多国分散を図らざるを得ず、日本での生産体制を大きく構築していく可能性が想定される。
日本はハイテク競争に負け、最先端基幹部分を失い、アジアにおけるハイテク分業構造においては底辺周辺の部品・材料・装置及びレガシーといわれる旧世代の半導体に特化することとなった。日本は、設計・最先端製造技術(EUV等)、半導体需要など重要な要素が欠けているが、TSMCなど台湾企業が日本の欠陥を埋め得るだろう。
熊本工場誘致を核とする経産省主導の半導体産業育成政策に対して、坂本幸雄前エルピーダメモリ社長、半導体技術者・コメンテイター湯之上隆氏など多くの専門家は懐疑的である。
これまでの育成策がことごとく失敗してきたこと、そもそも日本国内の半導体需要が小さいこと、人材がいないこと、先端コア技術は失われてしまったこと、等が指摘される懸念要因である。
確かに今の日本にはハイテク産業集積を再構築するのに欠けている部分が大きい。
図表3はオムディアの推計による半導体関連市場の世界シェア一覧であるが、日本は素材で56%、装置で32%の高シェアを持っているにもかかわらず、生産シェアは19%(うち10%は海外企業の日本工場)、半導体需要は7%と、需要シェアの低さが目立つ。
だがエコシステムのすべての要素を揃えている国はない。また坂本氏も湯之上氏も日本ハイテク敗戦の最大の原因が、懲罰的円高であったことを看過している。恩典的円安が日本ハイテク産業集積復活にとって、決定的ともいえる支えになることが重要である。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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