老後生活費、22万円でも…のしかかる税金・保険料「正直苦しい」高齢者の実態【税理士が解説】

老後生活費、22万円でも…のしかかる税金・保険料「正直苦しい」高齢者の実態【税理士が解説】
※写真はイメージです/PIXTA

どんどん貧しくなる日本。統計データからも、厳しい現実は明らかです。2019年には金融庁が公表した報告書に「老後2,000万円問題」が記載されていたため、大きな話題となりました。私たちの老後の生活はどうなるのでしょうか? 今回は、老後の生活費について検討してみましょう。専門家が解説していきます。

2020年度「家計調査年報」で見た、老後生活費の実態

先生:よし、今日は、実際の統計データを見ながら、老後の生活費がいくらくらいかかっているか、確かめておこうか。国にお金を納める若者が減少する政府が公表している2020年度の家計調査年報を見てみよう。ここに65歳以上の高齢者世帯の家計のお金のデータが掲載されているね。まずは、年齢階級別に見てみようか。

 

出所:2020年度の家計調査年報
[図表2]二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯の家計収支(2020年) 出所:2020年度の家計調査年報

 

生徒:この図表2は収入と支出の金額ですね?

 

先生:そうだよ。収入については可処分所得を見ればいいね。65歳以上の世帯の可処分所得を年齢階級別にみると、65~69歳の世帯は25万円、70~74歳の世帯は23万円、75歳以上の世帯は22万円になっているね。これを見ると、金融庁の報告書に書いてあった20万円よりも多くなっているね。

 

生徒:そうですね。

 

先生:消費支出をみると、65~69歳の世帯が26万円、70~74歳の世帯は24万円、75歳以上の世帯は21万円となっているね。

 

生徒:年をとるごとに支出が減っていますね。

  

先生:次に、夫婦と単身で分けて、見てみよう。65歳以上の夫婦のみの世帯について見ると、収入は25万円、可処分所得は22万円となっているね。支出は22万円になっているね。これだと、ギリギリ生活は維持できているかな。金融庁の報告書の20万円が正しいとすれば、赤字になってしまうね。

 

生徒:この図表に「非消費支出」と書いてありますが、これは何ですか?

 

先生:これは税金や社会保険料の支出のことだよ。年金にも所得税や住民税、健康保険料がかかるんだ。年金の保険料は支払う必要はなくなるけれど、所得税と住民税が天引きされているんだよ。それに健康保険料はずっと支払わないといけない。75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入することになるんだ。65歳以上74歳以下で障害を持つ人も同様だね。

 

生徒:えーっ!? 年を取っても税金や健康保険料が取られるんですね!

 

先生:一般的に、男性よりも女性のほうが長生きで、夫が亡くなったあとに妻は単身で生活することになるから、この期間の生活費を見てみようか。65歳以上の単身世帯についてみると、収入は13万円、可処分所得は12万円となっているね。支出は13万円だ。それ以外の収支を調整しても、赤字になっているね。

 

生徒:未亡人になった高齢女性の生活は苦しいんですね…。

 

先生:高齢者2人の生活費は22万円、単身だと13万円。不足するお金を若いうちに蓄えておかないといけないね。それでは、生活のために何にお金を使っているのか、支出の内訳を見てみようか。

 

生徒:私、年を取ったら世界一周旅行してみたいのですが!

 

先生:夫婦の場合、食費が6万5,000円、住居費が1万5,000円、水道光熱費が1万9,000円、家事用品が1万円、医療費が1万6,000円、交通費・通信費が2万6,000円、教養娯楽費が1万6,000円、交際費が1万9,000円になっているね。

 

生徒:あまり贅沢できませんね…。先生ちょっと待ってください! 非消費支出の3万1,000円って何ですか?

 

先生:これは所得税・地方税、社会保険料の合計だね。毎月3万円は天引きされているってことだよ。

 

生徒:住居費って何の金額でしょうか? 持ち家の人と賃貸の人では、住居費は異なりますよね?

 

先生:これは、持ち家に住む人が支払う修繕費、賃貸に住む人が支払う家賃を平均したものだね。この1万5,000円という金額を見ると、おそらく持ち家に住んでいる人が圧倒的に多いってことだね。一般的に、定年まで賃貸マンションに住んでいた人であっても、両親が他界したあとは、実家を相続して住むことになるケースが多いからね。

 

生徒:それでは、実家を相続できず、老後も賃貸に住み続ける人の住居費はもっと高くなるということですね。

 

先生:政府が出している「平成30年住宅・土地統計調査」によれば、1カ月当たりの家賃は、東京で8万円、全国平均で5万5,000円。これだと、家計の収支は大幅な赤字になるね。現実的な選択肢は、地方の老人ホームに入居することになるかもしれないね。

老後資金を作る「具体的な方法」3つ

生徒:これでは贅沢できないので、働けるうちにたくさんお金を稼いでおいたほうがいいですね。老後資金は、具体的にどうやって貯めればよいでしょうか?

 

先生:方法は3つあるね。ひとつは、可能なかぎり長く働き続けるということ。会社員だと60歳から65歳で定年退職が来るけれど、「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたことによって、定年が70歳の会社が増えてくると思う。その場合、70歳まで働いて、収入の減少を食い止めることが有効な方法になるね。

 

生徒:私は、ファイナンシャル・プランナーの国家資格を取って、定年後に独立開業して、75歳まで働き続けたいと思います!

 

先生:2つ目は、若い頃からコツコツと資産運用しておくことだ。老後資金のための資産運用として、お得な制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどがあることは知っているよね。いずれも利益に税金がかからないし、iDeCoならば掛け金が所得控除の対象にもなる。

 

生徒:そういえば、会社員であれば、毎月2万円ずつ35年間がんばって投資を続ければ、老後2,000万円問題はクリアできると聞きましたね。

 

先生:3つ目は、若い頃から、生活費の無駄遣いをなくすことだね。特に有効なのが固定費の削減だね。例えば、固定費には携帯電話やインターネットの通信費、水道光熱費があるよね。探してみれば、今よりも安い料金プランが見つかるはずだ。少ない金額でもコツコツと積み重ねていけば、長期的に大きな節約につながるはずなので、先送りせずに、早めに節約しておきたいね。あと、住宅ローンが残っている人は、低金利の借入金に借り換えられる可能性があるんだ。住宅ローンを組んでから長く年数が経っているなら、見直してみるのがいいだろうね。

 

生徒:若いうちから老後のことをしっかりと考えておかなければいけませんね!

 

 

 

 

大貫 友久(おおぬき ともひさ)
税理士
吉岡マネジメント・グループ/税理士法人日本会計グループ 代表社員・理事長

 

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