「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「堪忍しとくれやっしゃ」「ボチボチでんなぁ」の意味を探ります。

【ボチボチでんなぁ】

謙遜の王者・京都ジンの代表的な挨拶ことばに、「ボチボチでんなぁ」というのがある。主に商売人同士の間で用いられることばで、「あんまりパッとしまへんなぁ」という意味合いだ。「どうですか、最近の調子は」とか「儲かってますか」などの質問に対する受け答え文として用いられる。

 

いかに商売上の軽い挨拶とはいえ、ひがみ根性のひと一倍強い京都ジンの発した質問である。それだけに、「へぇ、お陰さんで儲かってます」とは答えにくい。そんなことを答えれば、あとあとどんなしっぺ返しが待っているともかぎらない。

 

そこで、聞き手が気を悪くしない(または「気をよくする」)よう、あえて謙虚に「もひとつですなぁ」「いや、あきまへん」と答えるのを常としているのである。

 

しかし、商売にかぎらず、一般のことに用いることも可能だ。

 

A:奥さん、その後、元気にしたはりますか。

B:へぇ、ぼちぼちですわ。

A:ああ、そうですか。それはそれは……。

 

と、このように人間にも用いることができる。

 

ただし、この場合は謙遜というよりは、韜晦のために用いられているといっていい。

 

…そんなんどうでもよろしやん

 

というのも、「ぼちぼち」だけでは、Bの奥さんがどのような状態であるかはわからない。にも拘わらず、Aがあえて「それはそれは」と「いい差し」の形で答えたのは、相手がその状態をいいたくないのだろうと忖度したからである。

 

したがって、明確な言明を避け、言質を取られないようにするには、その中身を相手に悟らせるのがもっとも得策だ。

 

ことと次第によっては、AにはBの返事が「お陰さんでゆっくりやってますわ」に聴こえたかも知れないが、Bの内心語からすると「いま離婚調停中ですけど、そんなこと言えしませんやん」であったかも知れないのである。だから、問われたほうは内心「そんなんどうでもよろしやん」と思っているフシがある。

 

ただ、注意したいのは、それがモノを訊ねられて応える側の回答であるということである。つまり、質問者がのっけから「ぼちぼちでっか」と発話した場合のそれは韜晦のためのものではない。某繊維会社に勤めるCさんは千葉県の出身。つい最近、京の繊維会社に出向を命ぜられ、あるプロジェクトを任された。

 

京の言語戦略に疎いCさんは、先輩から京でいう「ぼちぼち」は「少しずつ」もしくは「まあまあである」という意味であることを教えられていた。ある日、部長からそのプロジェクトについて「ぼちぼち行こか」といわれたCさん。「ああ、これが例の『ぼちぼち』か」と思って、じっくり腰を据えて取り組んだ。数日後、しびれを切らした部長から「一体いつまでかかってるんや」と大目玉を食らったのだった。

 

文筆家
大淵 幸治

 

 

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※本記事は、大淵幸治氏の著書『本当は怖い 京ことば』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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