なぜ「血糖が上がると良くない」のか?
高血糖の状態が続くと、身体にとって二つのことが起こります。
最近の研究では、高血糖は、直接的に活性酸素の発生を促し、血管に酸化ストレスを与え、動脈硬化を促進することが分かってきました。その結果、糖尿病の合併症や、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなると考えられています。最近では、高血糖症がアルツハイマー型認知症の原因となりうることが分かってきました。
もう一つ重要なことは、血糖が身体中のタンパク質と結合し「糖化」という現象を起こすということです。糖が結合したタンパク質は変性して、本来の役割を果たすことができなくなります。
糖と結合して変性したタンパク質は、身体の免疫システムから「異物」として認識され慢性炎症を起こします。慢性炎症は、さまざまな慢性疾患の原因となります(【⇒関連記事:がん、心筋梗塞、脳血管疾患…三大疾病の裏にある「知られざる元凶」】)。
糖化したタンパク質も軽度であれば、身体の修復機能が働き、分解することが可能です。しかし、高血糖の状態が続き、糖化が進むと、やがて分解することができなくなり、身体に蓄積するようになります。これを最終糖化産物(AGEs)と言います。糖質である小麦とタンパク質である卵や牛乳を混ぜて、加熱してホットケーキを作る場合を考えてください。加熱を続けるとだんだんと焦げて褐色に変色してくると思います。これをメイラード現象と言い、このときにできた「焦げ」が最終糖化産物なのです。
AGEsが蓄積するとドミノ倒し的に組織を障害し、動脈硬化、アルツハイマー病だけではなく、白内障や骨粗鬆症やがんの発症リスクを上げると言われています。糖尿病が万病の元と言われるのは、こういった理由からなのです。
最近は、「糖化」についても知られるようになり、それについての書籍もいくつか出ています。しかし、これらの本を読むと、まるで炭水化物を摂ればすべての人にたちまち「糖化」が起こって、AGEsが蓄積し、危険な病気になるかのような、恐怖心を煽るような書き方がされているものが散見されます。「糖化」が「老化」の原因であるという書き方をしている本もあります。また、自費診療でAGEsの測定を積極的に売りにしているクリニックもあります。
確かに、「糖化」は高血糖でなくてもある程度は起こる生理的な病態ですが、生理的なレベルでの糖化であれば、糖化したタンパク質を分解して消去する作用が働きます。身体に発生した活性酸素を消去する作用が私たちの身体に備わっているように、生理的なレベルの糖化タンパク質も消去する作用があるのです。このような身体のバランスを整えようとする作用を「ホメオスタシス」と言います。問題なのは、持続的に高血糖の状態になること、つまり糖尿病になっていることなのです。「糖化が老化の原因である」という主張は、私たちの身体のホメオスタシス機能を考慮していない偏った意見だと思います。
糖尿病の指標にヘモグロビンA1というものがあります。これは赤血球中のヘモグロビンが、血糖が高い状態が続くことで糖化している状態を見たものです。つまり、ヘモグロビンA1cが正常範囲であれば、糖化は生理的なレベルで問題はないと考えていいのではないでしょうか。
あくまで「病的なレベルの糖化」は慢性的、持続的に血糖が高い状態で起こる現象であり、ましてや炭水化物を食べたからすぐに糖化が起こるわけではありません。
健康な人では、一時的にたくさんの炭水化物を食べても食後2時間の血糖値は140以下に調整されます。必要以上に恐れる必要はないのです。それよりも、高血糖症の主原因であるインスリン抵抗性を起こさないようにすることこそ重要です。
次回は、インスリン抵抗性はどうして起こるのかについて見ていきましょう。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
藤井 祐介
株式会社イームス 代表取締役社長
メタジェニックス株式会社 取締役
株式会社MSS 製品開発最高責任者
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