2%未達の日本で「ハイパーインフレ」は起きない
■国債発行の上限はインフレ率で決める
――常識とはかなり違うイメージですね。でも、よくよく考えてみたらなんとなくわかる気がします。毎年、確定申告をしていますが、あれって昨年分の経済活動について申告するんですよね。つまり政府は翌年まで一部しか税収を得られないのだから、税金が財源になるはずがない。
しかも政府は毎年、予算については普通に執行している。先におカネをつくって支出しているわけですよね。要するに、毎年毎年、政府支出のために、政府が日銀の力を使いながらおカネをつくり出している。でも、それじゃ、おカネが増えすぎて過剰なインフレになる。だからガス抜きのように税金を取り立てて、おカネを消去しているんだ! と思えば、なんだかそう考えるのが当たり前だっていう気もしてきました。
藤井 そうでしょう。おカネは金貨のように固定されたものではなくて、借りたり返したりするたびに、泡のようにできたり消えたりするもんだ、っていうイメージを思い出してください。
――おカネは借りれば生まれる、返したらなくなる、でしたよね。
藤井 そうそう、借りたときにポコッと生まれて、返したときにボコッと消える。というのも、おカネというのは、「貸借関係の記録」なんですね。
――貸借関係の記録?
藤井 貸借の関係とは、つまり借りと貸しの関係です。たとえば僕があなたに何か良いことをしてもらったら、僕はあなたに「借り」ができますよね? で、あなたは僕に対して「貸し」ができます。そういう、僕とあなたの間にある「貸し借り」の関係の「記録」というのが、「貸借関係の記録」であって、それこそが、おカネ、というものの本質なんです!
――それがおカネの正体?
藤井 そうです。だから政府が銀行から借りれば、そこに「貸借関係」ができて、その記録として、おカネができあがるわけです。そして、その借りを返せば、その貸借関係は消えてなくなるので、その分のおカネもなくなるんです。貸借関係っていうのは、貸しを返すまでの間しか存在しないですよね? だから、貸しをつくったときにおカネができ、それを返したときになくなるんです。
――あー、なるほど。ということは、政府が「おカネをつくる」というのは、政府が政府の力を使って「借り」をつくる、つまり、「貸借関係をつくり出す」ってことなんですね。
藤井 まさにその通り。おカネというものは、貸借関係の記録、貸し借りの記録なんだと思えばいいわけです。
――ところで、政府が今みたいに「借り」をつくり続けて、政府の赤字が膨らむと、いずれハイパーインフレになる! と主張している人たちが、経済学者やエコノミストを含めて大勢いますけど、そういう意見は正しいのですか?
藤井 完全な間違いです。それは彼らの単なる妄想ですよ。さきほども少しお話ししましたが、借金が増えてハイパーインフレが起こるなんてことはこの現実世界ではほとんど考えられない。ハイパーインフレがあるとすれば、供給力が戦争とかクーデターとかで一気になくなってしまったときくらいしか現実的には考えられないんです。たとえば日本では、最も供給能力が需要に対して不足したのは、戦後の1946年ごろ。
日本は国内の工場や都市をアメリカ軍に焼き払われ、生産や流通がほぼ不可能になっていた。このときに、インフレ率がものすごく上がったんですが、それでも東京の小売物価指数では最大で年率513・8%。ケーガンの定義でいうなら、これですらハイパーインフレとは呼べない。
いいですか、今の日本ほどインフレと縁遠い国はありません。2013年3月以降、日本銀行は数百兆円規模で国債を買い取って、日本円を新たに発行したにもかかわらず、インフレ目標の2%にすら届かなかった。日本は戦後から随分と豊かになって国内の供給力が十分あるから、ちょっとやそっとではインフレにならない状態なんです。
2%すら一向に達成できない日本で、どうやったらインフレ率が13000%になるんですか? しかも、コロナショックで瀕死の状態になっている日本経済に、そんな心配は一切無用です。栄養失調でガリガリに痩せ衰えた女性が、肥満になったらどうしようと四六時中考えて、食べ物が食べられなくなっているようなものです。